NOVEL・SS

□Р ENDLESS LOOP
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「七夕なんか小学校以来だぜ」



ガキ臭いイベントだよな…、と鼻を鳴らして呟きながらも、サスケの声は僅かに弾んでいた。
イタチが紙細工の飾りを次々と仕上げていく隣で、
サスケはその器用な手先を感心したように眺めている。



今夜はバイト先で知り合ったイタチと、一緒に暮らし始めてから初めて迎える七夕。
小さな笹と折り紙を手に、仕事から帰って来たイタチを出迎えた時は、
サスケは驚くよりも先に呆れてしまった。



「アンタ、本当にイベントが好きだな」



そういうことには全く興味のなさそうな、クールな外見と物静かな性格のイタチ。
けれどサスケの誕生日は言うまでもなく、クリスマスにバレンタインといった季節行事。
更にはサスケと出会った日に、付き合った日…と、
イタチはまるで少女のように記念日を祝うことも好きだった。
果てはいつそんな情報を仕入れたのか、サスケの両親の結婚記念日にまで
プレゼントを買って来たのには、サスケは感動を通り越して焦りまくった覚えがある。
ミコトとフガクにはイタチをルームシェアしている先輩だと、一度だけ紹介はしていた。
だがどう考えてもその気遣いは行き過ぎだと、サスケはイタチに食ってかかった。
何より二人の関係を両親に勘繰られることが恐かったから。



「昔、こういうことが出来る環境じゃなかったからな」



幸いあまり自分の境遇や過去を話さないイタチが、
寂しそうにそう言ったお陰で、あの時は喧嘩にまでは発展せずに済んだが。
それでもイタチは懲りずに、イベントの準備だけは決して怠らない。
毎回眉を顰めてイタチの行動を見ているサスケに
最近は「大事な時間をサスケが忘れない為だよ」と、
そんな責任転嫁のような言い訳までする始末だ。



「だからってこの年で、七夕までやらなくても…」


「年に一度しか逢えない恋人達の夜に、星に願うなんて、ロマンティックだと思わないか」


「他人の幸せに便乗して願いごとまでする…っていう、厚かましい魂胆が分からねぇよ」



そう言いながらもサスケは手渡された短冊に、次々とペンを走らせている。
童心に返って懐かしい行事に乗せられてみるのも、悪くないのだろう。
ただ『金持ちになりたい』だの、『毎日・焼き肉!』だのと、およそロマンから
かけ離れた願いごとの羅列に、イタチは苦笑を浮かべていた。






「アンタは何も願わないのか?」



狭いベランダの手摺りに結わえられた笹が、大量の
紙細工を纏って満天の空の下、重そうに風に揺れている。
こんな大仰に飾り付けまで施すイタチなら、さぞ大きな夢でも有るのかと
期待していたのに、結局イタチは短冊には何も書かなかった。



「そうだな。敢えて願うなら、サスケの言葉使いが
治りますように…、ってところかな?」


「クソ!オレはそんなに口が悪いかよ?」



からかうような返事に、サスケは派手な舌打ちを漏らした。



「ほら。それだ。出来ればオレのことも、
『兄さん』とでも呼んで欲しいものだが…」


「は?兄さん?何かのプレイか?」




確かにイタチはサスケよりも年上だが、恋人に対してそれはないだろう。
怪訝そうなサスケにイタチはフッと、柔らかな笑みを返した。







『――前は最期までそう呼んでくれなかったから』








ポツリと零れたイタチの台詞に、サスケは口を尖らせた。



「前ってなんだ?元カレの話かよ?」


「さあな」



今にも噛み付いてきそうな勢いのサスケを、
イタチは言葉を濁して軽く受け流す。
ますます不機嫌そうに眉間に皺を寄せたその額を、
イタチは揃えた2本の指先で軽く小突いた。



「痛…っ!」

「すまない、サスケ。その話はまた今度だ」



全く合点がいかないとばかりに赤みを帯びた額を擦りながら、すっかり
不貞腐れた様子のサスケをイタチはそっと抱き寄せる。






(――お前がオレを何度忘れようと…)





「愛してるよ」


「そんなんで誤魔化されるかよ」



耳元で囁けば瞬時に頬を染めるサスケ。
それでも負けじと抵抗を試みる、その強かな唇をイタチは己のそれで塞ぐ。
舌先で歯列を割り口腔をなぞれば、やがてサスケは
甘えたように体重を預けて来るだろう。
さっきの言葉でさえ、その頃になればサスケは忘れてしまうに決まっている。





(――それでもオレは忘れない。何千回生まれ変わっても…)





背中におずおずと回される細い腕を感じたイタチは、
より一層深くサスケに口付けた。
骨も砕かんとばかりに抱き締められて、サスケが小さく喘ぐ。






(願わくばこの次も、ずっとお前と共に有り続けたい)







腕の中の誰より愛しい存在を確かめるイタチの脳裏には、何処かの星で忍として兄として、
サスケと共に生きた遠い過去が鮮やかに蘇っていた。







【終】


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