NOVEL・SS

□恋愛フィルター
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「誕生日にはケーキだなんて、誰が決めたんだよ!」



それは2ヶ月ほど前のサスケの誕生日。
サクラから押し付けられた手作りケーキを前に、
オレとサスケは悪戦苦闘していた。
豪華に色とりどりのフルーツで飾られたそれは、決して不味くはない。
寧ろこれがナルトあたりなら、大喜びでがっつくことだろう。
けれどオレもサスケも甘いモノは大の苦手だった。
いっそ気持ちだけ有り難く頂いて、捨ててしまおうか…なんて、
バチ当たりな選択肢が何度も頭を過ぎる。
きっとサスケも同じことを考えてるはずなのに、妙に義理堅いというか
律儀な面を持ってるだけにお互いそれも言い出せない。
胸焼けと溢れそうになる涙を堪えながら2時間。
あの日は二人でひたすらケーキを突ついていた。








「だからなんでまた貰って来るんだよ!」



そして今日はオレの誕生日。
家に帰った途端、下げていた紙袋の中身を察したサスケは声を荒げた。



「だってサクラが…」


「甘いモノは嫌いだって言って、突っ返せばいいだろうが!」


「サスケは今更、それ言えるの?」



口を尖らせてそう反論すると、サスケがグッと言葉に詰まった。
そうサスケにだって前科がある。
サクラはオレ達の仲を知っていながら、応援してくれる貴重な存在。
「二人で食べてね」と、差し出してくれたそれを、
サスケだって無下に断ることは出来なかったのだ。



「つかなんで中身が分かったの?」


「オレの時と同じ袋だからだよ」



深い溜め息を吐きながら、サスケが渋々といった様子で、ケーキの詰まった箱を冷蔵庫に仕舞う。
テーブルの上にはオレの好物、サンマと茄子の味噌汁。
サスケの誕生日の時はオレも同じように、おかかおむすびとスライストマトを並べた記憶がある。
特別な日だからと言って、決して贅沢などしない。
ただ今まで一人だった日を大切な人が祝ってくれる喜びとか、
二人で過ごせる時間に意義を感じる。
ひと回り以上年は離れているのに、オレとサスケは
そんな所まで似ていた。
相性がいい…、本気でそう信じ込めるくらいに。



「また和食のあとにケーキか…」


「ま。その後、口直しにサスケを食べるからいいよ」


「なっ…!だったらアンタが全部食え!」



このウスラトンカチが!と続く罵声だって、本気じゃないことがすぐ分かる。
その証拠に何を想像しているのか、サスケが耳まで赤く染めている。
恐らくその時間を一分でも早く迎えるために、
サスケもあの問題児と涙目で格闘してくれることだろう。
素直じゃない君の態度はいつだって本音の裏返し。
適当な言葉で大事なことをはぐらかす捻くれたオレと同じ、…なんて悦に浸っていたあの頃。
この瞳は過去も未来も映さなくなっていたんだ。





―――――――――
――――――






「カカシ先生〜!」


「サクラ!久しぶりだなぁ」



慰霊碑の前に佇み、いつものように物思いに耽っていると
遠くからかつての生徒が走り寄って来た。
早朝からこんな寂しい場所に突然現れた少女に
戸惑いながらも、少しばかり成長したその姿に目を細めた。



「どうした?とうとう綱手様の指導に音を上げたか?」


「そんなワケないじゃない。これ、渡したくって」



お誕生日、おめでとう!と言って差し出されたのは、
昨年よりも幾分小さな箱。




(あぁ、そうか。今年は一人分なんだ)





「もう祝って貰う年でもないんだけどね」



本当はサスケに食べて欲しくて、去年のこの日も
オレにケーキをくれたんだろうけど。
本命がいなくなった今年もまた届けてくれた。
そんな気遣いが嬉しくて「ありがとう」と、ある意味拷問に近いプレゼントを受け取った。



「先生、今回中身はお煎餅だから大丈夫よ」


「えっ?」


「甘いモノ嫌いでしょ?先生も。…サスケくんも」


「知ってたの!?」



驚いて顔を見ると、小さなピンク色の舌をペロリと
出して、サクラは悪戯がバレた子供のように笑った。



「だって二人があんまり仲良かったから」



嫉いてたのよ、と続けられた言葉に唖然としてしまう。
道理でラッピングに差がなかったはずだ。
あの手のこんだケーキは親切心じゃなくて…。



「まぁ、意趣返しってとこね」


「受け取らないとは思わなかったの?」


「二人ともそういうの、断れる性格じゃないもの」



確かにそうだった。
サスケは黙って無愛想に。
オレは笑って誤魔化して。



「よく似ていたから…」



それを過信していたあの当時なら、きっとその台詞は
最高級の誉め言葉だっただろう。
今となってはそれが仇になっていたように思う。
どんなに似ていても、同じ瞳を持っていても
見つめる未来は違うことに気付かなかった。
それに…



「ね、先生。サスケくんのこと怒ってる?」


「いや。こうなることくらい、この優秀な瞳で見抜いてましたから」


「嘘つき」



そんなこと写輪眼じゃ分からないでしょ、と途端に相好を崩すサクラ。
安堵したような笑顔に「ホントだよ」と心の中で呟いて、慰霊碑に向き直る。





そう。昔から“うちは”はいつもオレの心を連れて去って行く。
ただそんなことでさえも、見えなくなっていただけ。







【終】


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