NOVEL・SS

□自己満足な贈り物
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「ん〜。あの服、サスケに似合いそうだよね!」



本日数回目の台詞を口にして、カカシは喜々として駆け出して行く。
呆れ顔で立ち止まるサスケに構わず店に飛び込むと、店員にウィンドーに飾ってある服を横柄に顎で指す。
アレと同じ物を見せてよ…とカカシが頼めば、店員はあからさまに眉を顰めた。



今日は休日。
威厳漂ういつもの上忍服と額当ての代わりにカカシが身に付けているのは、
くたびれたジャージに白い眼帯。怪しげなマスク。
到底、高級ブティックなどに縁の無さそうな客の来店に、一瞬不審げな表情を
浮かべた店員も、カカシの両手を塞ぐ大量の紙袋を見た途端、期待に満ちた瞳で相好を崩した。
疾風のように注文の服を取りに店の奥へと向かう店員を眺めながら、
漸くカカシに追い付いたサスケは、深い溜め息を吐いた。






「ほら、やっぱりサスケには白が似合うよ!」


「つーか、何着目だよ」



強引に押し込められた試着室から出て来たサスケは、ゆったりとした白いノースリーブのシャツに、
他人の目さえなければ今すぐカカシが襲い掛かって来そうなほど、際どい白の短パン。
仏頂面のサスケとは逆に、すらりとした脚を舐めるような目で見つめながら、
カカシは今日一番の掘り出し物だと大はしゃぎ。
「無駄遣いだ!」とサスケが諌めようとも「上忍の給料なめないでよ」と、
値札すら確認しないで財布を出す始末。
これでまた新たな帰りの荷物が増えることは間違いない。



結局、今買ったばかりの服を着せられたまま、揉み手の店員を背に意気揚々と
店を出たカカシの後を、サスケは気まずそうに追う。
次第に口数が減り歩くペースさえも落ちていくサスケに、漸く気付いたカカシが振り返った。



「どうしたの?その服、気に入らなかった?」



元よりカカシの趣味満載の服を、サスケが気に入った試しはないが。
ただ今日の買い物の主役がまた自分になってしまったことが、サスケを悩ませていた。



「オレにはこの服一着分だって、アンタに返せるほどの経済力はねぇよ」


「だったら体で払ってくれたらいいから」



おどけて返したカカシの軽口にも、反撃してくる気配はない。
露骨な誘いに照れるどころか「いつもそればっかりじゃねぇか」と、
更に俯くサスケにカカシは戸惑うばかり。
何がサスケの機嫌を損ねたのか分からない。
このままでは帰ってから、折角買った服を脱がせる機会を失うかもしれない…。
内心の不埒な計画を隠すようにカカシは殊更、軽い調子を装った。



「サスケが上忍になったら散々貢いで貰うよ」


「そんな先じゃ、ダメなんだよ!」


「それってそんな未来は来ないってこと?」



暗に里抜けを仄めかされたようで、カカシの胸に不安が過る。



「違う!」


「だったら何よ?」


「あ、明日!アンタはまたひとつオッサンになるんだろ!だから…」



拗ねたようにそっぽを向いて言われて、カカシは初めて忘れていた自分の誕生日の気がついた。
普段は休日であろうと修行以外には興味を示さない少年が、朝から張り切って
外出を促した理由はそれだったのかと、サスケの気持ちが嬉しくて堪らない。
…オッサン呼ばわりされたのはかなり心外だったとしても。



感激とショックの狭間で絶句したままのカカシに、「何か欲しい物はないか」と改めてサスケが問い掛けてくる。
けれど今更カカシが求めるものなど何もない。
サスケがずっと側にいてくれることが最大の贈り物…、なんて素直に
本音を吐いたところで、今日ばかりは納得してはくれないだろう。
真剣に詰め寄るサスケの勢いに押され、ふと思い付いたかのようにカカシは、花屋の前で足を止めた。



「だったらアレ、プレゼントしてよ」


「え?」



サスケが意外そうな声を上げたのも無理はない。
両手が塞がったカカシの目線が示す先には、真っ赤な薔薇の花束。
値段的にはサスケの予算の範囲内のようだったが、
カカシが花束を欲しがるのには合点がいかないらしい。
怪訝そうに眉を寄せるサスケに「男って贈るばかりでさ。花なんて大抵不幸な時しか貰えないんだよね」とカカシは呟いた。



「不幸な時?」


「ま、入院とか退職、或いは死後…ってね。だから幸せな時に頂戴よ」



いつになくしんみりとした口調で尤もらしい理由を告げると、サスケは神妙な面持ちで店に入って行った。
いのが店番ではなかったことだけを幸いに、花束を
買うと、荷物だらけのカカシに代わりそれを抱えて歩く。
「ありがとう」と笑いながら、サスケには気付かれぬよう、その姿をカカシはうっとりと横目で見つめた。



───大きな花束を抱えた少年を、通り過がりざまに誰もが振り返る。
まだ中性的な美しい顔立ちに映える真っ赤な薔薇。
白い服が一層それを引き立たせる。
その視線に気付いたサスケが頬を赤らめて俯けば、長い睫毛が影を落として更に美しい。
カカシはそんなサスケを一生忘れないと心に誓う。







いつかその手は赤い花ではなく、他人の血に染まるであろうことを知っているから…。








「なあ。アンタの部屋に花瓶なんかあったかよ?」



突然、気付いたかのように見上げてくるサスケに、
そう言えば…とカカシは必要最低限の物しか置いていない自分の部屋を思い出した。
穢れのない今のサスケを思い出に残したかっただけで、その後のことはすっかり失念していた。




「んー。折角だからさ、風呂に花びらでも浮かべて二人で入ろうか」


「や、やっぱり最後は身体が目的だったんじゃねぇか!」



途端に顔を真っ赤にして猛抗議してくるサスケに
「ま、服をプレゼントする男の考えなんて、そんなもんだよ」とカカシは飄々と嘯いた。





【終】

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