NOVEL・SS

□★檻の中
1ページ/1ページ








それはいとも簡単な話だ。






その衝動を抑えるには写輪眼に殺意を宿し、ただ一睨みしてやればいい。
たったそれだけで狂気は跡形もなく消え去り、重吾は本来の自分を取り戻す。




その日、分かりきった手段を、敢えて使う気になれなかったのは何故だろう?




森の中での野宿。
辺りの偵察に行ったまま、夜になっても帰らぬ水月と香燐を待ちながら、
サスケと重吾は焚き火の守りをしていた。
風のざわめきと炎に爆ぜる枯れ枝の音。
大方、途中で仲良く喧嘩でもしているのだろうと、
たった今まで目の前で穏やかに笑っていた重吾が
突如、忌まわしい黒い模様を半身に浮かび上がらせ、襲いかかってきた。



僅かにサスケの反応が遅れたのに乗じて、馬乗りに
なってきた重吾。
堅い地面に強かに背中を打ち付けられ、怒りを込めた
瞳で見上げた刹那、逃れられない運命に縛られた男を憐れと思った。
異形と化した拳が、己れに向かって振り下ろされるのを、サスケは
他人事のように冷めた目で追う。






心まで侵された哀しい躯。






同じ呪われた力を我が身に受けてみるのもいいかと、
自嘲気味に唇を歪ませ瞳を閉じた瞬間、狂気に満ちた気配が止んだ。



「サ…スケ?」



それは理性か本能か。
自分が組敷いた人物を確認した重吾が、弾かれたようにその胸倉を掴んでいた手を離した。



「す…まない‥」


「なんだよ。戻っちまったのかよ?」



慌てて身体の上から退いた重吾に、面白くねぇなと呟き、サスケはゆるりと起き上がる。
そのはだけた上着から覗く細い肩。
乱れた髪を軽く指先で払うサスケから、重吾が気まずそうに視線を逸した。
その頬が微かに赤いのは、恐らく焚き火のせいだけではないだろう。






かつて覚えのある反応。






それに流されてみるのもいいかと思ったのも、また己れの気まぐれか。



「相手をしろ」


「え?」



信じられないものを見るかのように、大きく見開いた瞳。
「意味は分かるな?」と挑発的に笑えば、重吾の喉がゴクリと鳴った。
そこだけ時が止まったように、微動だにしない重吾の首へと腕を回しゆっくりと引き寄せる。



「サ‥スケ‥」



困惑する重吾の唇に、サスケのそれが羽根のように優しく触れる。
再び先程とは異なる狂気が、重吾を取り巻いた。








「がっつくんじゃ…ねえよ…」



貧ぼるように全身を這う唇。
乱暴に胸の突起を齧られてサスケの背中が反り返る。
徐々に兆しを見せるサスケのペニスを、重吾は
容赦なく握り込みんで欲を育てる。
溢れる雫は重吾の指を濡らし、扱かれる度淫猥な音を増した。



「う‥ぁっ…あぁっ!」



不意に指の後を追うかのように降りてきた熱い口腔に
自身を含まれ、サスケがビクリと下肢を揺らした。
ねっとりと味わうように蠢く舌が、敏感な部分をなぞる。
耐え切れず伸ばした指先で、サスケは甘く重吾の髪を引く。



「く…ぅっ!あ‥ぁ‥」



やがて大きく跳ね上がり放った蜜は、重吾が躊躇うことなく飲み下す。
脱力した身体はくるりと俯せにされ、腰だけ高く持ち上げられた。
両脚の間に体を割り込まれ、閉じることも叶わない。
羞恥に震えるサスケの、露になった秘部に重吾の舌が這う。
その探るようないやらしい動きは、サスケの意識を容易に連れ去った。
浅く舌を差し入れられて、サスケは一際高い嬌声を上げた。



「ふ…ぁっ!‥あぁっ!!」



思うまま啼かされ、十分に蕩けた頃を見計らって、
重吾の骨張った指が侵入を開始する。
体内を隈無く探る指が弱い部分を押し上げる度、再び
勃ち上がったサスケのペニスからは、白い飛沫が断続的に飛び散った。



「あっ‥!…や‥ぁ…あぁ…っ‥!」



草の褥に伏した身体。
荒い呼吸を繰り返すサスケから、重吾はずるずると指引き抜く。
代わりに喪失感にヒクつく箇所には、熱い物が押し当てられた。



「‥く‥ぅっ!あっ…あぁ…っ!!」



細胞まで侵食するように、ゆっくりと重吾の昂ぶりが体内へと滑り込む。
それが至極、当然のことのように思えた。
狭道に隙間なく埋めこまれた肉楔が、まるで初めから自分の一部分だったかのような錯覚に捕われる。






そうだ。






最初にこの身体を侵した人間は、重吾だったのだ。








その証しを消す為に、己れの血をもって刻んでくれた黒輪の封印式。
与えてくれた温かな腕の持ち主を、自ら切り捨て此処まで来た。



「サスケ、なぜ泣く?」


「痛ぇ‥から…だっ!」



重吾の指先が無意識に頬を伝う涙をなぞる。
けれど「加減しやがれ」と、と睨みつける目元を縁取る赤みは、決して苦痛からだけではない。
その証拠に動きを止めた重吾を促すように、サスケの腰が揺れている。
それは明らかにその先の快楽を知る身体。



「誰を思い出した?」


「ひぃっ!…うっ‥ぁ!」



後ろ髪を掴まれ、仰け反った首筋に重吾が噛み付く。
同時に強く突き上げられて、鋭い快感が電流のように全身を駆け抜ける。
あぁ…と呻いて崩れた体は、誰かと似た大きな手が支えてくれた。



「お前は何処にもやらない」


「あぁ‥っ!くぅ…っ!」


「ずっとオレの檻になってくれるんだろ?」



呪文のように繰り返される言葉。
揺すぶられ貫かれる度、呪印が疼く。
内部から波紋のように広がる熱と、それを塞き止めるかのように取り巻く黒い印。
身体に与えられる快楽と、心に齎される苦痛の狭間で…






最初から逃れられない檻に囚われていたのは、
自分の方ではないか…、とサスケは思った。







【終】


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ