NOVEL・SS

□染まったサスケの方程式
1ページ/1ページ




【染まったサスケの方程式】





サスケが音の里に来て早2ヶ月。
近頃、大蛇丸とカブトの様子がおかしい。
いや彼らが色々とおかしいのは前からだったし、
当初から残念な存在だったと言ってしまえばそれまでの話だが。
けれどこの1週間というもの、やたらと二人で大蛇丸の部屋にこもり、
日中のサスケの修行すら見てはくれない。
夜も何かをしているらしく、カブトは日に日に顔色が悪くなっていくし、
大蛇丸は顔の不気味度が急上昇。
それに二人とも何だか臭い。



恐らく怪しい薬か新術の開発でも没頭しているのではないかと、サスケは
推測していたのだが、自分だけが蚊帳の外に置かれているのは気に入らなかった。
いずれこの身体が大蛇丸のものになるならば尚更、部外者扱いにする必要などない筈だ。
これではまるで初めてから力量が足りないと決めつけられているようで気分が悪い。
苛立ち紛れに事の次第をどちらに問い質してみても、
曖昧に言葉を濁されコソコソと逃げられるばかり。
焦れたサスケは直接現場を押さえて、直談判に
持ち込んでやろうと、真夜中大蛇丸の部屋へと赴いた。




気配を消し音も無く扉を開けた途端、サスケはまず
足元に転がる大量の茶色の小瓶に気が付いた。
やはり新薬か或いは薬物を用いた術の開発に励んでいるのだろう。
更に奥の扉からは僅かな光と、カリカリと何かを引っ掻くような奇妙な音が洩れている。
今まさに二人は秘密の修行の真っ只中に違いない。
サスケは躊躇うことなく扉を蹴破った。



「サ、サスケ君!!」



刹那、机に向かっていた大蛇丸が手元に広げていた何かを驚異的な
スピードで隠したのを、サスケの写輪眼が捉えた。
同時に不意を突かれたサスケの登場に動揺した
カブトの机からは、白い紙の束がバラバラと床に舞い落ちる。
サスケはそれを素早く拾い上げた。



「サスケ君!ダメだ!見ちゃいけない!!」



カブトの慌てぶりからして、これは新術を書き付けたメモに間違いない。
悲愴な声を上げて止めるカブトから華麗に身をかわし、サスケは紙の束を裏返した。
そこに描かれていたのは予想通り、難解な術式!…ではなく現実的には
有り得ない黒髪ロングヘアーの美青年と、同じく黒髪でショートヘアーの美少年。
そして何故だか二人とも半裸で抱き合っていた。



「ま、漫画?」


「ダメだ!サスケ君!!」



サスケの手から原稿を奪おうと飛び掛かって来たカブトの顔面を、
容赦なく足蹴にしてサスケはページを捲った。



『先生。そこはイ…イヤです』


『身体はそうは言ってないよ。ほら見てごらん』


『あっ…あぁ‥っ。そんなっダメ…!』



表情ひとつ変えずにサスケがフキダシを音読する横で、大蛇丸とカブトは顔面蒼白になっていく。
原稿にはまだ修正を入れていない。
耐性の少ない年頃の男の子に、秘部モロ出しのBLは刺激が強すぎるだろう。
二人の心配を余所に、サスケは原稿を次々に読み進めて行く。



『もう3本入ったよ』『グチュグチュ』


『あっ…あっ!も‥先生っ!苦し…』『ひくん!』『はあはあ』


『まだイかせやしないよ』『ペロッ』


『やっ…あっ…あ──っ!』『ガクガク』



何故濡れ場の擬音まで丁寧に拾って音読していくのかは分からないが、
これもサスケの何色にでも染まる純粋な性格ゆえか。
食い入るように作品に没頭している小さな背中を恐々と眺めながら、カブトは大蛇丸に耳打ちした。



「案外平気みたいですよ」


「最近のコは性に寛容なのかしら」



ヒソヒソとサスケの様子を伺いながら話す二人を背に、やがて全てのページの
朗読を完璧に終えたサスケは「すげぇな」と呟き、深い嘆息を洩らした。
登場人物はどことなく9割り増しくらいに美化された大蛇丸と、自分に似て
いる気がしたが、それを差し引いてもこの作品は素晴らしい。



「大蛇丸、アンタやっぱり天才だったんだな。見直したぜ」



振り返ったサスケの瞳がキラキラと輝いている。
そしてそれは明らかに大蛇丸に対する初めての尊敬の眼差しだった。



「アンタはプロなのか?この名作の続きは?これは何処で売ってるんだ?」


「プ、プロ?め、名作…っ!!」


「ああ残念ながらね。この作品はイベントか通販、或いは委託書店でしか手に入らないものなんだよ」



矢継ぎ早の質問の中に含まれる、サスケからのさりげない賛辞。
クネクネと身悶え恥じらう大蛇丸に代わって、カブトが答えた。



「あとバックナンバーならネットオークションで、プレミア価格で売られているみたいだよ」



一応禁止は呼びかけてるんだけどね、とカブトは肩を竦めた。



「プレミアまで付いてるのか!?」


「そうだよ。だって大蛇丸様はBL同人界の人気作家なんだから。かつては『コミケの三淫』と呼ばれたんだよ」



サスケの記憶では確か『木ノ葉の三忍』だった筈だが、あれは聞き間違いだったのか。
それにカブトの説明には初めて聞く単語が多すぎる。
しかしサスケにとって今はそんなことはどうでも良かった。
この作品の価値が分かっただけで十分だ。
感動のあまり言葉を失っていると、それまでサスケの
称賛に陶酔していた大蛇丸が、突然声を荒げて乱入してきた。



「ちょっとカブト!!そんな無粋な本名で、サスケ君に私の栄光を語らないでちょうだい。
私にはエロチマルって言うPNがあるのよ!」



素敵な名前でしょ?と頬を染めて同意を求められても、サスケは別に
グロチマルとかイロキチマルでも構わない気はする。
とことん開き直った感も否めない。
しかし本人が良いと言うなら、きっとプライドを持ったPNなんだろう。
柄にもなく気を遣ったサスケは「エロチマル」と、素直に呼びかけた。



「アンタがスゴい漫画家だって言うのは分かったが、なんでそれをオレに隠してたんだ?」


「サ、サスケ君にはまだ早いかと思って…」


「最近になってやたら頑張っていたのはなぜだ?」


「……夏コミが近いのよ」



サスケの問い掛けにエロチマルが心底悔しそうに呟いた。
また分からない単語が出て来て、首を傾げるサスケにカブトが
「大規模な本の即売会で、音の里の稼ぎ時なんだ」と伝えた。



「全く木の葉潰しなんかやってる場合じゃなかったわ!お蔭でアシスタントは4人も失うし、黄金の右腕は
負傷するし!こんな入稿〆切ギリギリで修羅場ってるなんて…!」



私の美学に反するのよ!と、思い出したかのようにキーッとヒステリックに
髪を振り乱して、暴れるエロチマルをカブトが平然と押さえ込む。
どうやらこの発作は日常茶飯事のことらしい。
エロチマルの怒りはサスケには殆ど理解不能だったが、どうやら
アーティストとして、許し難い状況に陥っていることだけは分かった。



「もう3日も完徹よ!お風呂どころか、パンツを替えるヒマすらないのよ!」



ここで知りたくもなかった最近二人から漂っていた、腐ったような臭いの元が判明した。
ついでにサスケが怪しげな薬かと思っていた床に転がる空き瓶も、よく見ればユン○ルと眠○打破。
まさにこれは体力と気力の限界を越えた、創作活動の現場なのだ。
事態を漸く把握したサスケは考えた。
──曲がりなりにも今は自分も音の里の一員だ。
これが里の資金源だと言うならば、二人だけに仕事を任せてはいられない。
いや何よりこの素晴らしい作品の一端を、サスケは担いたかった。



「エロチマル、オレも手伝うぜ」



余程作業は難航していたのだろう。
初心者であるサスケの申し出にも拘わらず、二人は手を取り合って号泣してくれた。
何だかやっとここでの居場所を見つけられたようで、サスケの胸にも熱いものが込み上げていた。






──────────
───────
─────






「ところでサスケ君。君はその…、男同士の恋愛に嫌悪感はないのかい?」



エロチマルの隣で、登場人物の局部に淡々と修正を入れているサスケにカブトが尋ねた。
これはエロチマルも是非とも聞いてみたかった質問事項だ。
一連のサスケの反応は妙齢の男の子にしては、余りにも免疫が有り過ぎる。



「何言ってんだ?恋愛は男同士が基本だろ?カカシにそう教えて貰ったぜ」


「まさか…っ!?」



二人同時に重なった台詞に「ここならオレも使用済みだ」と、濡れ場の
結合部を指差しながらサスケは得意気に微笑んだ。







【終わってる】

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ