魔人探偵脳噛ネウロ/パラレル
□CANDY@ 『出会い』
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車の速度が落とされたことで目的地付近まで来たのだと笹塚は目を閉じたままで確認をする。
幹線道路である彌敦道を左に折れると、雑然とした界隈で車は止まった。
「待たなくてもいいぞ」
運転席から振り向いて指示を仰ぐ石垣に、面倒臭そうにそう告げると後部座席のドアを開け笹塚は外へ出た。
古くから営業している茶房の間を通り抜け界隈特有の匂いを嗅ぎながらポケットの中に煙草を探す。
「‥チッ‥」
指で探り当てたものが煙草ではなく先の車の中で石垣が寄越した飴であると分ると、彼は小さく舌打ちをした。
吸い過ぎは身体に良くないですよ?
大きなお世話だと思いつつも差し出された飴を受け取ってしまったのは、疲れのせいで意識が散漫していた為なのだろうか。
取引場所の変更情報がはいったのはマレーシアに入国して直ぐの事だった。モンスーン地帯特有の湿った風を受けながら携帯に耳を傾けるとくぐもった声の向こうで嬌声が上がっている。
『直ぐに発てるか?‥ああ、‥』
通話相手が笹塚と電話の向こうの世界に交互に声を掛けるのを聞き流すと、大丈夫だと請け負ってオフ・ボタンを押した。
指示のあった場所はシンガポールにある某倉庫街。
貿易港として栄えた時代の名残を湛えつつも今は放棄された倉庫も多く、水質の悪い川沿いには人影もない。
すっかり日の落ちた闇に足音も無く歩く人影があった。
外灯の光を避けて闇を進む影がふと歩を止める。数メートル先に目を凝らすとぼんやりとした明かりの下、倉庫の入り口に立つ黒い服の男が二名、辺りを警戒していた。
男から目を逸らさずにその死角に入り込むと手にしていたナイフの柄を握り直す。
再び歩を詰めて片方の男の背後に廻ると左手で男の口を押さえ、刃物を喉笛へと突き刺した。
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