魔人探偵脳噛ネウロ/パラレル

□CANDYA『干乾びた男』
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『‥そうか、では今回の取引は麻薬絡みでは無いと言いたいんだな?』

携帯から一拍遅れで聞こえてくる声に石垣は、ええ と小声で相槌を打った。笹塚と別れてから此処に戻り早急に連絡を入れようと石垣が電話をした相手は、香港警察の笛吹直大。三十代そこそこの弱冠で警視正へと上ってきたキャリアである。

『‥此方では、この件に奴が加わっている証拠はまだ出ていない。とにかく今のままでは捜査が進まないんだ。奴が麻薬とは別の<早乙女家の秘密>を知っているとも限らん。此方も捜査を立て直す必要があるのかも知れんな』

任務に戻れ と疲れたような声を残して通話は切れた。



「‥お前、馬鹿だろ?」

「うわああ!」

携帯を内ポケットに収めたところで背後から声を掛けられた石垣は、間の抜けた悲鳴をあげた。振り向くと笹塚が冷めた視線をこちらに投げつけている。

「い‥ったい、いつ帰ってきたんですか?」

「今、さっき」

残り短くなった煙草を携帯灰皿でもみ消すと、笹塚は溜息を吐いてから石垣との間合いを詰めてくる。じゃり‥と砂を踏む音が駐車場に響いた。

「こんな場所で定期報告をしていたら、見つけて下さいって言ってるようなもんだ‥」



もう少し、潜入捜査官なら気を利かせろ



氷よりも冷たい声が石垣の耳から流れ込むと彼の背筋に寒気が走る。目を見開いたままでこの次に起こるであろう自分の末路が脳裏を過ぎり、身を硬くしていると笹塚は、

「履歴は消せ」

と、石垣のスーツの上からポケットに仕舞ってある携帯を指し、彼の脇を通り過ぎて行った。
流れるような動作で寸分の無駄もなく駐車場を後にした男の背中を目で追って、笹塚が大きな屋敷内に姿を消すと初めて深く息を吐く。

まるで‥死神だ

噴出した冷や汗が石垣の額を覆っていた。



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