魔人探偵脳噛ネウロ2
□焼け野が原
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あなたが彼を救いなさい
告げられた言葉は苦く
私を容易く打ち砕いた
『焼け野が原』
明け方に夢の中をうつらうつらとさ迷っていた筈が敢えなく目覚まし時計のアラームによって現実に引き戻された。
いつになく起き抜けの頭痛が酷いのはきっと昨夜の酒のせいだ。
ゆるりとベッドを降りてキッチンに向かうと笹塚はカウンターテーブルに出しっぱなしのコーヒーメーカーをセットして、そのままバスルームへと移動する。
薄暗い一角に置かれた洗濯機には昨夜脱ぎ捨てたシャツがだらしなくはみだして男所帯の無器用を語る。
歯ブラシをくわえると笹塚はそのシャツを洗濯機に入れ直して、ため息と共に蓋を閉めた。
朝の日差しが弱い事で今日の天気の予想をたてつつも確認の為テレビをつけるためにリモコンに手を伸ばした処で、昨夜の深酒の原因が指先に触れた。
「‥‥」
本日二度目のため息が笹塚の口から溢れる。
『‥笹塚君、話があるんだが』
昨日の帰りに一課長に呼び止められてからのやりとりが脳裏に蘇ると、笹塚はリモコンではなく一課長から渡された【深酒の原因】を手に取った。
白い表紙を捲ると柔らかな遊び紙の下に着物を着た女性が微笑んでいるのが透けて見える。
『方面本部長の一人娘さんで‥』
どこをどうすれば自分なんかの処にそんな話がくるのかと首を傾げて頭の後ろに手をやれば、洒落ではない視線が笹塚を射抜く。
『私の顔をたてると思って会うだけ会ってみてくれないか?』
見合いを勧める時の常套句を言ってのけた彼の顔には、定年を控えた歳相応の疲れが見えた。
手にしていた見合い写真を無造作にローテーブルに投げ出すと弾みでリモコンが床に落ちた。
鈍い音が酒に浸った脳に鈍痛を呼ぶ。
それは、やっかいだな と渋ってはみたものの弥子の存在を明かす訳にもいかず、苦々しい思いで承諾をして帰ってきた自分に腹が立ちつい昨夜は酒を呑み過ぎたせいだった。
とにかくこの写真は返してしまおうと決めたこの時はまだ、後にくる嵐を知る由もなかった。
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