魔人探偵脳噛ネウロ2

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『売られた喧嘩は言い値で買うべし』



最早フリーパスとなってしまった警視庁の正面玄関をくぐると、インフォメーションの側で所在無さげにしている匪口の姿が目に入った。

「匪口さん!」

弥子の明るい声がフロアに響くと受付の女性がちらりと此方に目を向け、苦笑ともとれない笑みを零す。声を掛けられた匪口が手を挙げ弥子に応えると、少女もつられて手を挙げた。

「来てもらっちゃって悪いね」
「いえ、こっちこそ‥」

長い間借りっぱなしだったDVDを返そうと思いながらも会う機会が中々つかめずにいた事を弥子が詫びると、匪口は気にしないでと言いながらそれを受け取った。

「わざわざ来てもらわなくとも良かったのに」
「んー、でももうかなり借りてたんで、やっぱり悪いかと」

二ヶ月程前にレンタルショップでとあるDVDを探していた時、偶然会った匪口が自分が持っているのを貸すと申し出てくれたので、後日笹塚を通して借りたのだがせめて返す時は笹塚を通してではなくちゃんと自分でお礼が言いたかったのでこうして届けに出向いたのである。

「匪口さん、甘いものは大丈夫でした?」

DVDと一緒に渡した小さな紙袋を指すと弥子は心配そうに匪口を窺った。お礼のつもりで焼いたクッキーが箱に入って袋の底でかさりと音をたてる。

「ああ、大丈夫。って、これ‥」
「お口に合うか分りませんけど、よかったらどうぞ」

「うっそ、マジで!?すげえ嬉しい!」

満面の笑みで答えると、つられて弥子も笑った。

知り合いから友達へ、あわよくばその先へと昇れたらと心のどこかで考えていた矢先のプレゼントだったので、素直に嬉しい。このままの勢いで弥子を食事に誘ってしまおうと思いつくと匪口は弥子の手首をとっさに掴んだ。

「!?」

「あ、ごめん‥!何か嬉しくてさ」

よかったらこれから飯行かない?とはにかみながら弥子を誘った時、匪口の背後で溜息が聞こえた。

「笹塚さん」

自分と向かい合っていた弥子の顔が途端に綻ぶ。どうみてもこの笑顔は自分に向けられていた笑顔よりも数段ランクが上だと気付くと、匪口は小さく舌打ちをする。

「匪口さんにDVDを返しに来たんです」

何も他意はないのだろう。にこにこと笑う弥子の瞳にはもう自分は写っていない。そんな彼女の姿が少しだけ癪に障ったのか、匪口はこれ見よがしに笹塚に先の紙袋を見せて、

「桂木に貰っちゃった」

と、わざとらしく得意顔をしてみせた。



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