【BL小説】ぬらりひょんの孫

□振り向いて 【鯉首】
1ページ/1ページ

「首無」
「なんですか」


ある日の昼下がり。
奴良組本家の長い廊下を歩く首無を、現総大将の鯉伴が呼びとめる。
台所の女妖に頼まれた仕事の途中の首無は、歩みを止めずに返事をする。


「首無」


振り向かない首無に、鯉伴はさらに声をかける。
一定の距離を保ちながら、うろうろと首無の後ろを歩きつつ、名前を呼ぶ。


「何ですか二代目」


肩を叩くでもなく用件を言うでもない鯉伴との妙な距離感に居心地が悪くなり、
さっさと頼まれごとを終わらせてから鯉伴にかまってやろうと思った首無は、鯉伴に答えつつも足を速めた。
しかし首無が速く進むと、鯉伴もそれに合わせて歩く速度を速めて後ろを付いてくる。
そのくせ、名前を呼ぶだけで、他は何もない。


「なあ、首無、首無」


後ろで細く束ねた首無の黒髪を、ちょんちょんと引っ張る。
そんなに呼ぶのならば首ごと後ろに向かせでもしたらいいだろうに、それをしないのがまた首無を不審がらせた。
こんな風にしつこく呼ばれたら振り向いてもいいのだが、こんな接し方をされると、振り向いたら何があるのだろうかと逆に不安だ。
がしかし、鯉伴はくいくいと後ろ髪を引っ張り続ける。
頭がふわふわ揺れて、気持ち悪い。


「・・・・・っんだよ鯉伴!」


とうとう鬱陶しくなって、何が起こってもいいように首無は両手を塞いでいた荷物を床に置いて体ごと振り向いた。
その整った眉の間には深い皺が刻まれている。
だが渋い顔の首無とは裏腹に、鯉伴は嬉しそうににやにや笑いを顔に浮かべている。


「いんや、何でもねえ」


楽しそうに言うと、首無の長い黒髪の束をするりと指の間に滑らせて、顔に笑みを残したまま、首無の脇をふわりと抜けて行ってしまった。


「・・・・・・は?」




-------------------------------------------------------------------




振り向いて。





こんな可愛い主従いるでしょうか。


鯉伴はね、用はないんですよ。
ただ首無に自分から振り向いてほしかったんです。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ