【BL小説】ぬらりひょんの孫

□さよなら最後の百日紅【鯉首】
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「リクオ様、その木は危ないんです。お降りください」

夏になり、リクオ様は毎年のごとく、蔵の隣の百日紅の木に登っている。百日紅は幹が滑りやすいから危ないからおやめくださいと幼い頃から言っているのだけれど、大丈夫だよとからからと笑って、どうしようもない。

昔雪女も小さい頃に同じことやって木から落ちて大泣きしたんですから、と言うと、余計なことを言わなくていいと雪女に怒られた。




思い出す、戻らないいくつかのあの夏。雪女が大泣きしたりするもう少し前のことだ。

あの人もよく、この百日紅の木に登っていた。同じように、危ないからやめなさいと叱ったものだった。燃えるように青空に映える百日紅の花がきれいで、近づきたくなるんだから仕方ないだろとあの人は笑った。夏の終わりだった。もうすぐ散る頃だろうという百日紅は、あの人が枝を揺らすのに合わせてばらばらと私の上に降ってきた。

「なあ首無、紅がお前の金髪によく似合うじゃねえか」
「何を馬鹿なこと言ってるんですか、自然に散る花をそれよりも前に落とすんじゃありません」
「へいへい」


そう、何を馬鹿なことを。お前の黒髪のほうが、紅い花がよく映えて似合ってた。言葉を飲み込んで、落ちた花びらをそっと指先で摘まみ取った。





「リクオ様、本当にお気をつけくださいね」

ああ、なんだか、疲れてしまった。夏の暑さのせいだろうか。紅色が、目の奥にちりちりと痛い――――












=== 終 ===



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