【BL小説】マギ
□甘い夜【ジャファアリ】
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「ジャーファルお兄さん!」
長い廊下の向こうから、大きな籠を抱えてアラジンが走ってくる。
その後ろを、同じように籠を抱えたアリババとモルジアナがぱたぱたとついてくる。
「これどうぞ!」
微笑ましく三人を眺めて立ち止まったジャーファルに、アラジンが籠の中から取り出した小さな包みを差し出した。
ジャーファルはその薄桃色の可愛らしい包みを受け取る。
「俺たち三人で作ったんです。」
「あのねジャーファルお兄さん、今日はバレンタインっていうんだよ!好きな人にチョコレートをプレゼントするんだって!」
でもみんなのことが好きだからたくさん作っちゃったんだよねえ、とアラジンがアリババを振り返り、アリババとモルジアナは照れ臭そうに笑って頷いている。
こうして子どもたちに好意を示されるのは嬉しいもので、ジャーファルも自然と頬が緩む。
今日中にみんなのところに配りに行かなくちゃ!と、アラジンはぶんぶんと手を振ってまたぱたぱたと走っていった。
モルジアナ、アリババもそれに続く。
足を踏み出すその一瞬、ジャーファルがアリババと目を合わせると、アリババはちょっと困ったような顔をして目を逸らした。
「あの、ジャーファルさん」
アリババは数歩行ったところで立ち止まり、振り返って小さな声で呼んだ。
「どうしました?」
「あの、今夜、お仕事何時頃に終わりますか?」
数歩歩いた分だけじりじりと戻ってきて恥ずかしそうに上目遣いで聞いてくるものだから、今からお誘いを受けるであろう夜まで待てずに思わず抱き締めそうになる。
ジャーファルは穏やかな微笑みを保ったまま、
「ちょうどもうすぐ今日期限の書類が終わるところですから、今日は日が落ちる前にあがれると思います。」
と優しく答えた。
「えっと、あの、今のはみんなで作ったやつなんですけど」
頬を染めて少し俯く。
「ちゃんと特別に作ったやつ、ありますから!」
アリババはそう言うと恥ずかしさを振り切るように勢いよくくるりと背を向け、アラジンたちを追いかけて駆け出した。
「それでは今夜は楽しみに部屋で待っていますね」
意味ありげに、駆ける背中に向かって言う。
アリババは振り返ったが何を言っていいのかわからなくなったのか、顔を真っ赤にして曲がり角を曲がっていった。
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甘い夜。
(今夜はホワイトバレンタイン。)