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「みょうじサンあんたってさ、」

馬鹿?



ふぅーっとわざとらしく、残念そうに息を吐き出す水戸洋平。


その原因はやはり彼女。


相変わらず馬鹿な彼女にも、もう慣れたらしい桜木軍団の順応性の良さは、賞賛されるべきものがあるだろう。


彼らにとってあまりにも異質なその存在は、初めこそ厄介でもどかしいものであったが、今となっては彼女の馬鹿さ加減を面白がるところまでになった。


(進歩なのか、落ちぶれてんのか‥‥‥)


心の中ではそう思う洋平であったが、なまえの存在が憎めないものであるのも確かだった。





そんな彼女のことを、洋平や3バカが、さらには女子には弱い花道でさえ「なまえ」と名前で呼ぶようになったのは、


入学して1週間もたたないうちだった。


もちろんなまえも、自分を名前で呼ぶ彼らに満足した様子で、

水戸、から洋平へ、
野間、から忠へと呼び方を変えた。


大楠や高宮は、「名前呼びづらい」となまえに一刀両断されて、出会った当初から名前で呼ばれていた花道は、それをさぞご満悦といった様子で笑い飛ばした。




馬鹿ではあるけれどもあっけらかんとした性格の彼女に、桜木軍団はみるみるうちに心を開き、彼女もまた、同じだった。



なまえは同じ中学出身の生徒がクラスにいない様子で、ひとり屋上でパンをかじる所を彼らに見つかってからは、一緒に昼休みを過ごしている。


今このときもまた、彼らは一緒にいた。



先に食べ終えた洋平が、食後の一服、と言って柵にもたれながら煙草をふかしてなまえに聞いた。



「気になってたけど、なまえって中学ドコ出身?」

「え、言ってなかったっけ?私、富が丘中ー」


相変わらず毎日がパンのなまえは、口をもぐもぐさせながら答えた。


「えっ、じゃあキツネと同じなんか!」


ぎょっとしたように横で叫ぶ花道にキツネ?と眉をよせて問いかける彼女に、


大楠が「流川とかゆーやつだよ、ほら、バスケ部の、」と補足をした。



花道がバスケ部に入ってからもう何日も過ぎていたが、なまえは洋平たちと一緒に花道をからかいに行こうと誘われても、なぜかそれを頑なに拒否していた。


そのため、バスケ部の、という大楠の補足はあまり意味を成してはいなかったように思えた。


のだが、


「ああ、流川楓か。」


あまりにもあっさりと、キツネと呼ばれた人物を彼女が特定したものだから、彼らは戸惑いを隠せない。


「なまえ知ってんのか?」


自分の興味のあることにしか目を向けない彼女の性格を知っている以上、なまえが他の男子の、ましてや天敵流川の(天敵だと思っているのは花道だけ)ことを知っていた、という事実は、桜木軍団にとって少し腹立たしかった。



吸い終わった煙草をコンクリートに擦り付けながら隣に腰を下ろす洋平の動作を見ながら、


「まあ、中学一緒だったしね、目立ってたし、」


と呟くなまえを、花道や3バカが下唇を突き出してムッとした表情で見ているのに気づき、カラカラと笑った。


「やぁねぇもう、ヤキモチ?」


にやにやしながらパンの袋をぐしゃっとするなまえの姿に、「ちげーよ、ばーか」と野間が笑い、それを合図に大楠や花道、高宮が彼女の頭をぐりぐりと撫でた。






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