nov1
□らしくない
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今日も屋上で溜まってあいつらと昼飯。
食後の一服に、立ち上がり柵にもたれかかるようにして煙草をふかした。
ここからだと1年生の教室がよく見えるけれど、今日は興味を引くものがなくただぼんやりとグラウンドを見つめた。
「やぁねー洋平くんったら黄昏ちゃって。」
「いや大楠、今日はあのお気に入りちゃんが休みらしいから、」
「あぁ、だから校舎を見なくてもいいってわけか、なるほどねぇ〜」
「毎日毎日、よく探すよな、教室でも会ってるくせによ、」
後ろで大楠と忠によって繰り返される会話に「うるせぇーぞ」と牽制してもそれは止まらずに、大げさにため息をついた。
別に、探しているわけじゃない。
ただ、昼休みになると教室を出て行く彼女が誰とどこにいるんだろう、とか他に友達はいるんだろうか、とか。
そんな心配をしているだけで。
いつの間にか、この高い屋上からぼんやりと、みょうじさんの姿を探すようになった。
それをあいつらが面白がって笑うことに俺はほとほと呆れている。
(それに、お気に入りちゃんってなんだよ‥‥)
「別にお気に入りってわけじゃねー。」
まだ然程短くはなっていない煙草の先をコンクリートに押し付けて、それをコンビニの袋に捨てながら2人の前に座り込む。
「でも、なんか洋平、前より俺んとこ来る回数へった!」
寂しいじゃねーか!と隣で喚く花道に、そうだっけ?と苦笑いを零し、しょうがねぇでしょ、と眉を下げる。
気づいていないわけではない。
彼女の前の席になってからは、休み時間に花道のところへ行く回数もめっきりと減った。
けれど、それは仕方のないことで。
人見知りだと俯きながら呟いたみょうじさんを、なぜだか放っておけなくて。
話しかける度に、嬉しそうに顔を綻ばせる彼女にはもっと、笑って欲しい。
そう思うからで。
「珍しいな、」
「は?何が?」
「洋平が、女の子に慎重なんてな」
さっきまで黙っていた高宮が、眼鏡を光らせてさも意味ありげにそう言った。
「だから、そういうんじゃなくて、」
慌てて否定しても、ヒューヒューと声を上げて喜ぶ野間と大楠にその声はかき消されて。
どうせ何を言っても受け入れてはくれないこいつらには、もう何も言うまいと口を閉ざした。
「いやー俺も思ってたんだ、洋平にしちゃあ慎重だよなってさ、」
「中学のときなんか、来る者拒まず去る者追わずな奴だったもんなー、あーやだやだ」
「そーそー、ちょっと声かけられたらすぐアドレスゲットしちゃってさー」
「俺も、水戸君が好きなの、って振られたことあるぞ‥‥‥ぐすん」
「あーほら泣くな泣くな、花道」
こいつら。
俺を何だと思ってるんだ。
何も聞こえない振りをして、寂しくなった口元に、また新しい煙草を咥えて火をつける。
確かに、言われてみればそうなのかもしれないけれど。
でもそれとこれとは違う、と頭の中で繰り返す。
「おい、それ、みょうじさんには言うんじゃねーぞ、」
好きとかきらいとか、そういうのではないんだろう。
ただ、自分の過去の事実を、知られたくないと思った。
別に、今までやってきたことに後悔をしているわけでもなくて、それでもただ、「優しい」と思われている自分のイメージを壊したくはない。
彼女の前では、そんな風に思ってしまう自分がいた。
だからだろうか。
今日は珍しく欠席の彼女に、見せてあげるつもりで書いたノートは、いつもよりもその作業がそれほど苦でなかったのは。
だからだろうか。
手渡したノートに「ありがとう」と照れたように笑う彼女を想像して、頬が緩むのは。
end