nov1

□お金がすべての世の中で3
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貧乏神「なまえ」との同居が決まってから、洋服とか部屋とかをどうしようかとああだこうだ考えている間にも、当の本人は新しい生活が楽しみらしく、俺の前で「よーへーよーへー」と言いながらぐるぐる廻ったりぴょんぴょん跳ねたりちかちか消えたりとにかく落ち着きなく動いていて。そのせいかようやく非現実的な「消える」という行動にもだんだん頭も慣れてきた。



そうしていると携帯が鳴ってディスプレイには高宮の文字。出るとやけに楽しそうな声が俺の名前を呼んだ。




「よぅ、さっきまでよー雀荘にいたんだけど臨時収入入ったから、鍋の材料買っておめーんち向かってんだけど、今日ひまか?」




いつものごとく唐突にかかってくる電話は、俺の都合を考えるそぶりも見せない自分勝手な内容ではあったけれど、それでも鍋という言葉につられて「おぉ、ひまひまー」と笑ってしまった。「もう家にいっから準備しとくわ、おぅ」とだけ答えて電話を切った直後に、先ほど同居が決まったばかりの小さい女の子がいたことに気づいた。




「あちゃー‥‥‥どーすっかな‥」



最近では固めてもいない髪の毛を掻きあげてなまえを見下ろすと、不思議にも俺の心は読まなかったみたいで「どーしたの」と首を傾げた。




「あー、おめーって‥‥俺以外に見えたりすんのかな‥‥」



ぼーっと突っ立っている彼女の頭にぽんと手を乗せて「うーん」と唸ってみてもそんなこと俺にわかるわけねーかと気づいて。そもそも俺自身この突然決まった同居生活に驚いているわけだし、いざとなったらあいつらを頼らざるを得ない時がくるだろうなとも思う。はじめは‥‥きっと動揺するだろうけどな、


考えてみて、焦るあいつらの顔が頭に浮かんで思わず吹き出した。そんな俺を見てなまえも訳のわからないまま「むはっ」と笑ったから、まぁなんとかなるだろうなって気がした。














「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥で?」





家のドアを勝手に開けて入ってきた高宮と途中で合流したのであろう野間と大楠は、開口一番にそう言い放った。洋平の「何が?」という知らぬ返事に「この子が誰の子なんかって聞いてんの!」と喚く大楠の声に思わず耳を塞ぐ。




「やっぱりおめーらにも見える?」



痛む頭を押さえて、わりと真剣に聞いたつもりなのに、3人には「ふざけんな!おめー俺たちに黙って隠し子なんか作りやがって!」と怒鳴られる始末。ちょ、ちょっと落ち着け‥と両手で制し、不思議そうに遠巻きに見つめるなまえをちらりと見てから、はぁという吐息と共に事情を話しだした。






「貧乏神‥‥‥‥」






神妙な顔でそう繰り返す3人に、想像していた以上に早く理解してくれたのかと息をついた瞬間にその期待は裏切られて。「ってんなわけねーだろ!」と返ってくる言葉に内心、やっぱりそうなりますよねぇ‥とただ苦笑いするだけで。



もうこうなれば強硬手段しかない、そう思いついたのはもうこの状態は俺には説明がつかないからで。なまえを振り返ってその名前を呼んで「ちょっと消えてみ?」と肩を竦めると、それに嬉しそうに答えた彼女が俺に見せたときみたいにちかちかと消えたり現れたりした。



洋平は、どうだまいったかとでもいうような顔で固まる3人を見やると、そのぽかんとした表情に大満足な様子で「な?」と口端を吊り上げる。




「いやだって‥‥貧乏神って‥‥‥」



はぁ‥と髪を掻きあげる忠と、鯉のように口をぱくぱくさせてなまえを指差す雄二と、買い物袋をどさっと落とした高宮に、洋平は「ふふん」と鼻を鳴らした。





end


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