nov1
□これをきっと奇跡と呼ぶ
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最近、やっぱりこれは奇跡なんじゃないかと思う時がある。
1億3千万人が暮らすこの国で、君と出会えたこと。
ううん、それだけじゃない。
どこまでも続くこの銀河の中で、同じ時に、同じ星で、こんなちっぽけな存在であることを、君と共有できたこと。
もし俺が人間に生まれなかったら、今こうして君の手を握ることすらできなかっただろうから。
「りょーちん先輩、何考えてるんですか?」
「ん?なんでもないよ、」
「なんか、変な顔してましたよ」
「そんなことないって」
隣から覗き込んでくる君と、同じ速度で歩けることがどんなに幸せなことか。
そんなことを考えてた、なんて言ったら、きっと笑われるから絶対言わないけど。
地球上に人類が誕生してから、この瞬間まで。
一体、何人の想いが伝わっただろう。
そしてそのうちの何人の想いが、報われたんだろう。
俺の頭で考えるには、少し数が多すぎる気がする。
それくらい、難しいことなんだろう。
左手に伝わる温度をもっと感じたくて、ぎゅっと握りしめた手に、君は驚いたように俺の名前を呼んだ。
「なまえちゃんさぁ、」
「どうしたんですか?」
「んー、‥‥‥やっぱりいいや」
「もー、さっきからやっぱ変ですよ」
「あはは、ちょっとね」
本当は、「今、しあわせ?」って、聞こうとしたんだけど。
でも、どうせ笑われちゃうから、また今度の機会にとっておくことにするよ。
それにそんなこと聞かなくたって、
握り返してくれたこの左手に、その答えがあるような気がするから。
end