捧げ物

□廻ってまた廻って落ちて
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暗い、真っ暗だ
何も無い空間…闇
ひたすら黒以外の色がない世界
光どころか…広さまでも分からないこの世界
そんな世界に今、フメツは居た

自分の姿が暗黒で染まり見えない
否、実態があるかも疑わしい
死んでるのかと思うが、それも違う
呼吸をし、心臓が動いている
生きている…?
疑問に思うことがありすぎて追いつかない思考回路

視界自体は今は無意味だが聴覚は役に立っていた
聞こえるはずのない悲鳴が、聞こえてくる
悲鳴、銃声、何かが貫く音、生々しい音、血が飛び散る音
そして一番聞きたくない声
もう一人の自分
暴走の人格
そいつの声が、笑い声が聞こえてくる
耳をふさぎたいのに体が動かない
まるで金縛りにあったかのように…

どれも聞きたくない
嫌でしかない声、音___
拒絶したいはずなのに
動いてくれない

(…アイツが…元いた場所…)

深い闇の中
果てしなく続く闇にもう一人の暴走の人格…「フメツ」はいた
今はフメツがいる
フメツは崖から飛び降りた
しかし宙で体に激痛が走り、もうすぐに地面へと直撃する瞬間
意識は途絶えた
気づいたらこの闇の中に閉じ込められていた

「あっけねぇな、ザマァーミロ」

アイツが言う
俺をあざ笑うかのように


(…結局は…意味ねぇのか)

負けたのだろうか…
自分自身に
否、暴走した闇に

(…何を守れたんだ俺は…)

守ったものなど…
全て無駄になってしまったのだろうか?
ずっと一人
このくらい闇の中で
死ぬまでこの悲鳴を聞くのだろうか
そして何もできないまま
世界が暴走した己自信に壊されるのを黙ってみなければいけないのだろうか…
フメツは目を細める

(…守れなかった…)

平和どころか
皆の笑顔さえも

もう
何もかも手遅れなのだろう

終わり

なのだろう…か



「フメ…ツ…はん…」




フッと闇の中で聞こえた声
弱弱しいがはっきりとフメツへと届いた
この声は…

桜丸――?

顔を上げるフメツ
声が響く


「いつまで…寝て…るん…?」


いるんやろ?

そう告げる桜丸の声は
息苦しく今にも消えてしまいそうだった
フメツは何故?と問う

「返事して…や…、ウチの知ってるん…フメツ…はんは…こげんニセモンには負けたり…せぇへんやろ…?」

「目ぇ…開けてや…声…聞かせてや…」

名を呼ばれる
桜丸が呼ぶ
フメツは名を呼ぶ…が
どうしても一歩前に出れない

俺は……


「負けん…な…フメツはん…!!」


力強い声が暗闇の中に響く
ドクンッと跳ね上がる鼓動

(逃げたくない)

必死になって呼んでくれる仲間がいる
必死に
ずっと必死に
だからそれに

こたえたい

俺は

守りたい!!!
俺自信の力で勝負したい!!

足場無き地を蹴り上げる
深い闇を
遠ざけるように
フメツはもがき続ける
必死に

(俺は…守りたいんだ!!!!)

亀裂
小さな小さな亀裂は大きな亀裂へとなる
次第に洩れだす光…
光がフメツを包み込み始める

そして
白くなった視界____
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