捧げ物

□希望と絶望
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地を蹴った
たった二人のMSが
3000というあまりにも圧倒的な数の軍隊に向かい二人のMS_フメツと黒蘭は走ってゆく
一般人からすればこれほどまでの負け勝負など見たこともないだろう
だが、この二人は諦めてなどいない
どんなに無謀だと言われ様と、考えを変える気も、背を向ける気もない
当然だ
これが二人の“勝負”なのだから

「狂った奴らだ…哀れな、死ね」

部隊の隊長が冷たく告げる
兵士達が持つ銃器が一斉に構えられ、二人へと向けられるのだ
無謀だと
また誰かが言う
引き金を引こうと指に力を入れる
だが

その引き金は引けなかった

瞬間、上空から降り注がれる光線に兵士達は戸惑い引き金から手を引く
兵士達を遮られるかのようにそれは降り注いだのだ
その事に驚いたのは兵士だけでなく、フメツや黒蘭も同様に驚いていた
目を瞬かせ、黒蘭はその光線を放ったものを見る

「な…んだあれは…?味方、なのか?」

上空を自由に旋回するその飛行機のようななりをしたそれを見て、黒蘭はただただ度肝を抜かれていた
そしてそれを見たフメツは一瞬にして気づく
あぁ…あれは…

『…Z…』

小さく呟かれた言葉
目を細め見る
あの時…喧嘩したままだったっけ
その飛行機から光線を打ち終わると変形して地に降り立つ
白と蒼の装甲が映える体
Zは静かにフメツ達の前に立ち、真っ直ぐと見るのだ

「…大丈夫か、フメツ」

『…お前…』

なんで…?
問おうとする
が、その問いは言葉として零される事はなかった
撃たれ、怒りを露にした軍隊が叫びを上げて再び襲ってきたからだった
相手は3000という数…
フメツは目を細める
まずい
そう
思った瞬間

「ハイメガキャノンッ!!!」

何処からか放たれる特大のビーム砲
100人ほどの兵たちが吹き飛ぶ
その放たれた場所から部隊を睨むのはZZとプラスだった
どちらとも怒りを露にしている
温厚なZZでさえ、その瞳に殺気が宿っていた

「てめぇら!!よってたかって大人数で二人を相手たぁ…それでも男かこの野郎!!!それ以前に多勢に無勢だろうが!!!!」

怒りの怒号を上げるプラスを前に部隊の者達は一瞬怯む
一歩、後ろへと引く

『お前等…なんで?』

戸惑う
あの時、確かに皆は…俺に失望していた
裏切り者と呼ばれても仕方なかった
何故なら仲間に手をあげたから
そんな俺の元に何故皆は…
来てくれたのだろうか…?
分からない
何で…
そう考えているフメツを見て、Zは静かに答える

「…“仲間だから”…それでは答えにならないか?」

『!』

何で…
どうして…?
Zの言葉にフメツは何も言えない
今までそのような事を言われた事がなかったから…
固まるフメツにZZが笑みを浮かべ、近づき
声をかける

「友達助けるのは当然の事だろ?遠慮なんかするなよフメツ!」

バシンッと背を叩き言うZZに一瞬だけ視界が歪む
あぁ…なんて…

「いくら勝負好きでもこりゃ流石に無理だろ?助太刀してやるぜフメツ!!」

プラスも近づき、笑みを浮かべいうのだ
友達だから
仲間だからと

『…っ』

皆の優しさに
戸惑いを隠せないのは事実で
緑の瞳が、ぶれる
Zは背を向け、静かに言う

「…Mk-Uに怒られたんだ…、君に酷い事を言った事を…謝ってこいと」

『……』

違う
酷い事を言わせるような事をしてしまった俺が悪いのだ
そう…悪いのは俺なのに…

「…僕は、裏切るという言葉を履き違えていたみたいだ…本当に裏切ると言う事は 信じてやれない事だったのに…な …すまなかった」

そんな謝らないでくれよ
俺なんかに謝らないでいいんだ

緩む涙腺
しかしすぐに目を瞬かせ
何時ものように笑みを浮かべ
言うのだ

『ありがとうな、お前ら!』

元気よく、高々と礼を言うのだ
その笑みを見て、皆も微笑み返す
これで、何時もの通りだと
思っていたのだ

「…あれ?そう言えば桜丸は?」

ZZの何気ない問いにフメツと黒蘭は顔を俯かせる
答えにくい問い
それでも答えなければいけない問い

『…そこの木のところに……いる』

指を差し答える
その場所を見れば、傷だらけで目を閉じている桜丸の姿
まるで眠っているかのように見えるそれにZZは首をかしげる
だが、フメツを見て分かるのだ
いくら馬鹿なZZでもそれに気づけないほど疎くはない
そして桜丸が、もう二度と目覚めないのだと瞬時に理解した
ZZの顔が青ざめる
声が震える

「…嘘だろ…?何で…なぁ…そんな…」

手を伸ばし、瞳に涙が溜まる
徐々にそれは増えZZの頬を静かに伝う
その後ろでプラスは拳を強く握り締め、歯を強く食いしばる
Zはただ黙っていた
真っ直ぐと、眠る桜丸を見つめていた
そして静かに目蓋を閉じ
スッ…と部隊へと視線を戻す

「……お前等」

ビームライフルの銃口を向け、Zはただ一言

「骨も残さないと思え」

殺意の篭った瞳は殺気を交え膨らみ
ただ無表情のまま引き金を引いた
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