捧げ物

□最初で最期の結末
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沈黙

眼を開けば数秒前と変わらぬ風景に唖然とする
何故だ?
確かに自身は起爆スイッチを押したはず
なのに何故いまだ何も起こる事なく自分達は生きているのか
何度も繰り返すように押す
しかしそれは何も反応せず、ただの鉄の塊のように役に立たなかった
瞬間、総司令官の表情は険しくなり怒りを露にする

「何故だ、何故だ…何故だぁァアァァアッッ!!!?」」

怒りに任せ地面へと叩きつける
狂ったかのように何度も踏みつけ残骸へと化す起爆スイッチだったそれはもう何も反応しない

「何故だ…!何故起爆しない!!儂は、確かにあの時…!起爆コードを…ッ!」

「そ、総司令官!落ち着いて下さ―――」

「えぇい黙れッ…!」

荒れ狂う総司令官に声をかけ、正気に戻ってもらおうとする
しかしそんなベックを怒りに任せ無情にも突き飛ばすのだ
尻餅を付き、痛む傷に顔を歪ませるがあまりにも冷静さを失っている総司令官にただベックは戸惑うばかりであった
いまだ何故だ、と声を荒げ叫んでいる総司令官は尚も現状が出来ず混乱している
頭を押さえ、ミスなどなはずだと…何度も何度も

瞬間

一閃の光が走る

それは総司令官の胸を貫通する
血が口から吐きこぼれる
崩れ落ちるように床へと倒れこみ貫通した胸を自身の手で押さえる

「総司令官…!!」

傷だらけの体に鞭を打ちベックは総司令官へと駆け寄る
傷を手で押さえ止血しようとする

「詰めが甘かった様ですね?実に貴方らしくない最期だ」

音もなく現れた人物に黒蘭とフメツは咄嗟に構える
が、すぐに眼を見開き少しだけ体が強張る
ベックはただその人物を睨みつけ
そして総司令官は
ただ驚愕するのだ

「…っ、き…さまは…ッ」

薄気味悪い笑みを浮かべた人物は見下すようにせせら笑う

「まさか本気で起爆スイッチを押そうとするとは…、あの日偽のコードをプログラミングしといて良かったですよ」

「ど…ドルト…隊長…か…ッ」

ドルト隊長…
彼は総司令官の側近であり、そしてフメツや黒蘭の上司という役目を持ち
そして二人に実験を施した張本人であった

【まーた胸糞悪い奴が出てきたな】

赤目が笑う
楽しそうに、けらけらと子供のように笑う

「き…貴様…、裏切ったか……」

途切れ途切れに問いかける
その言葉を聞き、ドルトはふんと鼻で笑う

「裏切った?違うな、端から私の目的通りですよ」

銃を肩に乗せ、はぁと肩をすくめると分かっていなかったのですか?と言葉を零す
言葉一つ一つが癪に障る
わざと挑発するように言っているのは何故か

「いいですか総司令官?この爆弾コロニーは野蛮な戦争好き共にとって、いくら金を払ってでも手中に置いておきたい程の絶対的な切り札になるんですよ?かつて、地球の馬鹿共が核を番犬の様に手中に置いて威嚇させていたように」

カツンと、まるで生徒に分かりやすく説明するように
ドルトは人差し指を立て言っていく

「まぁ凶暴な犬ほど主人に噛み付く…と言いますしね?全くこんな美味しいビジネスは他に無いでしょう?」

ドルトはそう言い終えると薄ら笑みを浮かべる
ベックは金色の瞳をドルトに向けたまま目を細める

「…やはり、貴方が総司令官と共にあのコロニーを作った張本人ですか」

「そうだが?」

悪びれる様子もなくさらりと答える
全く何も考えてはいないという訳ではなさそうだが

「コロニーの奥のトンネルに、総司令官と共に写っている貴方の写真がありました…。そして貴方が描いたと思われるコロニーの起爆装置の設計図まで」

「…フン、最初から本気でこのコロニーを爆発させるつもりなど微塵もなかったんですけどね…。あの頃から私は貴方の計画に反対でしたし」

ドルトの言葉を聞き、総司令官は目を細める
辛そうに息をし、言葉をただ無言で聞く

「かつて少年だった頃の私が慕い、憧れたこの男は…どんな軍隊達にも恐れる事なく剣を振り下ろし、弾丸を撃ち放つ鬼の様に恐ろしい最強の兵士だった…。それが、たかが家族を失ったくらいで争いを恐れる臆病者に成り下がった!!」

声を荒げ、鋭く総司令官を睨みつけ拳をわなわなと震わせる

「争いを無くす為だと…?何をその歳で幼稚な事をぬかす!?争いこそが歴史を作り、大きな金を動かすのだ!!」

ドルトは先程とは打って変わり誇らしげに両手を拡げ語り浸る
その眼には総司令官など非にならぬ程の深く濁った野望が写っていた

「貴様…下等が…ッ」

「下等?何を言ってるんですか…神でもないのに本気でこの宇宙を崩壊させようとしていた貴方に言われたくないですね…」

言い、銃口を向けるとためらう事もせずに引き金を引き、二発目の銃弾が総司令官の腹部へと撃ち込まれる
血が口から吐き出され床へと吐き散らす

「ッッ!やめろぉぉッ!!」

ボロボロの体に鞭を打ち総司令官の前に立つ
金色の瞳はドルトを真っ直ぐ睨みつけている

「ベック、お前は本当に馬鹿な奴だ…、昔から総司令官と影でベタベタ親密にしていて」

はぁと呆れるように言い目を細め見る

「総司令官が今まで何をしてきたか解っているだろうに…お前達を道具に、駒にしていくつもの血を流させた」

「……」

「分かるか?そいつは生きてはいけない存在なのだよ、そんな極悪人に…その身を呈して庇う価値が何処にある?」

腕を拡げ、必死に庇おうとしているベックに冷たく銃口を向けるドルト隊長…

「何て哀れな」

「黙れ!!!」

ピリッとした殺気がドルトへと向けられる
ベックの叫びは大きく、母船内へと響き渡る

「俺だって…、分かっている…。総司令官が間違っているなんて…そんな事……」

未完成である故に捨てられ
いらないものだと
価値のないものだと

気持ち悪い眼
呪われているのかしら…?
悪魔の子…?

「慕う相手も、愛すべき相手も…間違えていたかもしれない、だけど…俺には、この軍しか、世界でこの方しか…いないから…」

死ね
死んでしまえ
お前のような奴

死んでしまえ

「俺の事を……」





――ベック

お主の名はベックじゃ

苦しかったのだろう?なら儂と共に来い…

儂はお前みたいな者を歓迎する





名を授けてくれたその時から
ずっと、今まで

「俺の事を認めてくれて…優しい眼で見てくれる人は…この方しかいないんだ…ッ」

小さき者
名前の意味を聞いたときは何故自分が小さき者なのか分からなかった
ただ自分は

どんな小さき者でも貴方を守る盾として存在します


フメツと黒蘭は、小さな孤独な戦士をただ見つめる事しか出来なかった




パァンッッ




乾いた音が響いた

フメツと黒蘭の表情が強張り、二人は目を見開きその場から駆け出す

まるでスローモーションのように倒れていく小さな体
静かに床へと倒れた小さき者は
消え行く意識の中、手を伸ばした
憎悪を込めた瞳がドルトを捉えた


「なら、仲良く地獄に行け」


無情にも呟かれた言葉は
ベックへと届かなかった
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