恋人はSP

□あいつの警護
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一柳昴は、SP仲間と共にSPルームに連れてこられた一人の女性と対面していた。
(これが総理大臣の娘…)
遊園地のアルバイトで生計をたてながら、大学に通っていると情報にはあったが…。
(政治家の娘がアルバイト生活…)
目を引くほどの美人ではなかった。
背中まで伸ばした髪は、控え目な赤味にカラーリングされていたが彼女にはよく似合っていた。
薄化粧で服装は黒のベストに白いブラウス、ベージュのフレアスカートという地味なファッションだった。
(こいつの精一杯の贅沢がカラーリングか?)
知らず知らず昴は対象を観察していた。
女性はアルバイトの後であったためか少々汗臭い…。
俯き気味で、こちらをみようともしない。
「一条明子さんだ」
班長の桂木大地が女性を紹介する。
「…あの…一条明子です…」
女性はおどおどしながらおじぎした。
平泉現総理大臣の娘という素性が発覚し、身柄を狙われる可能性が濃厚になった為、総理直々の要請を受け、保護し警護する事になった。
実際、既に不審者に彼女は狙われた。
平泉総理を辞職に追い込みたい輩の差し金か、まだ裏付けははっきりしないが…。
「一条さん」
桂木がおどおどする女性に声をかけると、彼女はびくっと体を震わせた。
「貴女の身柄は我々が責任を持って警護致します。ご安心下さい」
「は…はい」
つい昨日まで普通の生活が一変したのだ。
動揺していても無理はない。
父親が一国の総理大臣で、自分がその息女だったという現実。
しかも父親と面識は一度もない。
「明子!そんな、心配するなよ。必ず守ってやるからさ」
昴の右にいた秋月海司の声に、明子が俯いていた顔をはねあげた。
「…?」
「よう、久し振り」
海司は周りが呆気にとられる中、明子に軽く手を上げた。
「長いこと会ってなくてもすぐ分かったぜ」
暫く彼女は海司を凝視していたが、記憶が一致したのか喜色を浮かべた。
「全然変わってないのな、お前」
「海司!もう会えないかと思ってたよ!」
明子は並ぶSP達の元に走り寄ると、海司の前に立った。
「海司変わったね、すぐ誰か分からなかったよ」
「そうか?あんまそう思わないけどな」
「海司はそうでしょうね」
にこにこと満面の笑顔を浮かべる明子に、海司も笑い返す。
「海司、彼女と知り合だったのか」
桂木の問いに海司は頷いた。
「幼馴染みっす。俺が小学生の頃に引越したきり会ってなかったんですけどね」
我に返った明子は、恥じ入るようにまた俯いた。
(すぐに下を向くやつだな)
初対面には警戒心がつよいのか、内向的なのか。
海司が警護対象の明子の幼馴染みなら、彼女の専属は海司だろう。
それが妥当だろうと昴は判断していた。
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