恋人はSP

□あいつへのプレゼント
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昴にとって、女と付き合って何がうっとうしかったかといえば、これまでに付き合ってきた女に贈るプレゼント。
誕生日だったり、記念日だったり。
その日が近づいて来ると、これが欲しい、あれが欲しい、とねだってくる。
父親の顔を立てて付き合っていたから当然どれも長続きするわけはなかった。
無駄な投資をしただけで、自分に何が返ってくるわけでもない。
婚約者の件だって、父親が持ってきた話で、ほぼ、なあなあ状態。
女といて楽しいなんて思ったことはない。
小学生の頃から見合い話を持ちかけられて、警察幹部の娘や財界の娘、政界の娘らと付き合わされた。
子供でも分かる。
父親は自分を道具に出世したいだけ。
見合いが成立してもしなくても、政界や財界にも自分の顔を売っておきたい打算もある。そのくせ自分は再婚しない。
今時の若者同様、昴も女性経験は早かった。健康な男なら、性に興味はあって当たり前。とはいっても、ただ付き合いの延長線程度。
重ねるのは体だけ…心が触れ合ったなんて思ったことはない。

ハーバード大学を卒業後、帰国した昴に寄ってくるのは高年収、高学歴、肩書きばかりに目がいって昴自身を見ようともしない高飛車な女達。
家柄も勤め先も
良いところのお嬢さん達だった。
いつしか昴にとって、女と付き合うのは体を重ねて、年中行事を消化する行事みたいになっていた。
婚約者とも1、2回会うか会わないかなのに結婚に向けて話は進行していたが、どうでもよかった。
結婚式のプランは二人に任せるなんて両家は言っていたが、向こうでも帳尻合わせをし、相手はいちいち自分に判断を仰ぐ『決められない』女。
判断に困るとメールや電話で昴に判断を仰いでくるのがうっとうしかった。
どうせ昴達の為の結婚式でもなかったのに。
昴は父親の望む通り警察官になった。
一柳家の男子として当然のように。
キャリアは警視庁に入るなり警部補の階級から始まる。
あとは出世するだけ。
SPの道を選んだのも要人警護で手柄を立てて出世する近道の手段。
そんな折り、昴の配属された桂木班に任務が降りた。
―総理には娘がいた。その娘が何者かに命を狙われている。
その総理の娘を事件解決まで、桂木班が総出で警護すること―
そして、総理の要請でうち一人が総理の娘の専属警護をするようにとの主旨が通達された。
しかもそのSPは総理の娘が指名するとか。
―めんどくさい―
昴の率直な意見だった。
常駐警護…しかもその娘の
部屋に同居という信じられない内容。
総理の娘、一条明子は自分を指名してきた。キャリアだから当然な指名か…と自らの経歴に複雑な心境になった。
しかし警護に成功すれば出世は間違いない。
が、明子と行動を共にしていて分かった事があった。
―明子はキャリアとか肩書きで自分を指名したわけではないと…。
最初こそ警戒心が強く頑なだったが、信頼できるSPとして接してくれた。
最初はそうだった。
警護対象とそのSP。
だけど、明子の素直さと垣間見せる芯の強さ、昴をキャリア扱いせず接してくる何気なさに、気がついたら惹かれていた…。

もうすぐ明子の誕生日。
彼女に何をしてあげたらいいんだろう。

昴は軽い戸惑いを覚えながら、今日の警護に着いていた。
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