恋人はSP

□想えばこそA
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少し時間は遡る…。


ワインバーのカウンターで北条晃子は一人、ワインを飲んでいた。
歓迎会の会場で昴に会えるかと思いきや、女を連れて帰ったと知りその女に対して理不尽な怒りを覚えていた。
(昴が連れて帰った女って、あの時の小娘ね)
昴を知る分、昴の取る行動はぴんとくる。
歓迎会がお開きになった後もすっきりしなくてこうして一人で飲んでいた。
店内のテーブルにはカップルや友人同士が楽しくやりあっているのに、一人酒。
北条は苛立つ。
自分はよりを戻したいのに、昴は話を聞いてくれない…彼の傍らには昴の愛を一身に受けいるあの小娘が自分から昴を遠ざけている。
(あの小娘のどこが良いっていうのよ)
もう何杯目かのワインを口にしていると、
「北条警部補殿!」
男の声に北条はじろりと横目に睨んだ。
「もう帰りましょう。飲みすぎですよ」
まだ若い青年刑事が困り顔をしていた。
名は風間伸也。
好青年だがスーツに着られている感が強い。
歓迎会の間、一人空瓶を片付けたり、灰皿変えたり追加オーダーしたりと皆の世話焼きをやっていたのをぼんやりと思い出す。
まるで女みたいな男…それが北条の第一印象だった。
「私は貴方の世話は要らないわ」
一人飲み直す北条が心配と言って強引に着いてきたのをすっかり忘れていた。
「顔真っ赤なのに、何言ってるんですか!」
(何よ!しつこいわね)
北条はムッとする。
「さっさと帰りなさい。私は当分居るから」
「閉店までですか?お店に迷惑ですよ」
「しつこい男は嫌われるわよ」
「…分かりました」
風間は立ち上がると、カウンターを離れた。帰るかと思いきや携帯で電話をかけ暫く話をしていたが、携帯をポケットにしまい、再びカウンターに戻ってきた。
「後10分ですからね」
「何を言ってるの?」
「タクシーを手配しました。10分後にはお開きですよ」
風間はしれっとした顔で言う。
「何を勝手な事してるの!」
「やけ酒で醜態晒す警部補殿を見たくないだけです」
「私がやけ酒ですって!?」
「飲み方がそうじゃないですか」
風間の言い方にかっとなった北条は手首を翻した。
風間に飛んだ平手はしかし、あっさり掴まれた。
「ふらふらじゃないですか」
「…っ!」
北条は掴まれた手を震わせた。
「ラストオーダーで構いませんね」
北条は答えなかった。
(昴ならいざ知らず何で、こんな奴に説教されなきゃならないのよ!)
胸中では風間に対する苛立ちが募っていた。
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