恋人はSP

□想えばこそB
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津田のスィートルームに銃声が響き、明子の悲鳴が上がった。
水嶋の撃った弾丸は明子の右腕を掠め、右袖上腕部の寝間着の生地を裂き、腕に裂傷を負わせた…。
「さあ、津田。告白なさい」
津田はすっかり萎縮し、口も聞けない状態に陥っていた。
「父は命乞いさえできなかったのに…この程度で怖じ気づくなんてね」
「水嶋さん…」
「陳腐な説教はいらないわ。平泉の娘」
銃声が再び響く。
明子の右肩を弾丸が抉った。
車椅子に繋がれた明子は、車椅子事横転した。
「う…」
明子は呻いた。
右肩は痛いというよりも熱い…。
「順番を変えようか」
水嶋が完全に照準を明子に向けた。
「橋渡しを買ってでたくせに、津田一人制御できなかった男が国の総理なんて可笑しくない?」
「お父さんは最後まで、津田議員を説得していたはずです」
痛みに耐えながら、明子は口を開いた。
「総理になった今でも、力不足を悔やんでいるんです!」
官邸で話していたときの、平泉の苦悩した顔が焼き付いている。
「だから?」
水嶋は眼光を鋭くする。
「それは身内の話でしょ」
じろりと水嶋は明子をを睨んだ。
「陳腐な説教は要らないって、言ったでしょ」
明子に、津田に水嶋は冷笑する。
「き…」
津田はやっと言葉を絞り出した。
「救助がそのうち来る!総理のご令嬢と私を助けにな」
「そんなの分かってるわよ」
ホテルのドアはマスターキーがなければ中からしか開けられない。
マスターキーを使われれば突入される。
「だから、そうなる前に告白してってあれだけ言ったのに」
銃声が立て続けに鳴り響き、明子の悲鳴が上がった。
「次は本当に彼女に当てるわ」
マガジンを入れ替え、水嶋は怯える明子と硬直のとけない津田に言った。
明子の寝間着は所々が裂けて血が滲み、腫れ上がっていた。
津田の前に水嶋はボイスレコーダーを放った。
「全部話せば私は…」津田は震えだしていた。
「話せば助けてあげても良いわよ?」
はっと津田が水嶋をすがるように見上げた。
「代わりにこの娘を殺してあげるから」
明子は拳を握りしめた。
「…すまない」
明子に詫びたかと思うと津田はボイスレコーダーを手にとった。
呆然と明子と水嶋が津田を見詰め…。
水嶋は高笑いした。
「呆れた!総理のご令嬢の命より自分の命を優先するなんて!」
銃口は明子に向けたままで水嶋は嘲笑を浮かべた。
「まあいいわ…約束は守ってあげる」
明子は呆然としたまま床に横倒しになっていた。
車椅子の下敷きにはならなかったが、
身動きがとれない。
(昴さんがきっと助けに来てくれる)
だから、絶望しない。
どんな事をされても諦めない。
「津田議員…本当にそれでいいんですか」
命が惜しいわけじゃない。
「自分自身を惨めにするようなやり方で…犯人の思い通りになって…」
明子は津田をひたと見た。
「それが国民に選ばれた代議士のとる行動ですか!」
「黙れ!」
明子に津田は怒鳴った。
「総理の娘とは言え、お前は庶子に過ぎん!」
明子は、代議士とは思えない発言に、絶句するしかなかった。
平泉がどれだけ苦労して、津田と地域住民との話し合いに奔走していたのか…。
「これが津田という男よ…ホテル建設も結局自分の為に強行しただけ」
銃口を明子の頭部に突き付け水嶋は悲しく笑う。
「さあ、見ててあげるからそれに話なさい!」
水嶋が恫喝した時だ。
ドアロックが解除される電子音が響き、複数人が室内になだれこんできた。
「明子!」
その声に、明子の目に涙が滲んだ。
「随分都合良く現れるわね」
強く息を吐くと、水嶋は明子に銃を突きつけたまま桂木班を睨み付けた。
「一柳…大切な存在なんて必要ないと思うって、私言ったわよね」
「ええ…」
「私の復讐の邪魔をするなら、彼女を撃つわよ」
銃口はぴったりと、明子の頭部に密着している。
「もう、調べはついてるんでしょ?だったら、今更話す事なんてないと思うけど」
「任務の為なら、俺は貴女を撃ちます」
昴は冷静に言い放った。
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