眠らぬ街のシンデレラ
□サンドリオンの出会い
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『週間シンデレラをゴシップ雑誌で終わらせたくないんです!』
青臭い言論を掲げて、俺達セレブの生活を取材させてくれと交渉してきた小娘。
名は高梨明菜。
俺と担当の黒神を男女の関係と勘違いして写真撮ってくれたゴシップ記者。
初めて会った時は化粧っ気もないし、やぼったい眼鏡にダサいスーツ着て、古ぼけたバッグといった安っぽいコーディネート。
彼女はマニアや一部の物好きの為に発行される週刊誌『週間シンデレラ』を大衆受けする雑誌に変えたいらしいが、四六時中カメラに狙われているこっちからすれば飯の種の為に詭弁を弄しているとしか思えない。
二度目のVIPルーム訪問のこの日は、らしい格好になっていた。
高梨明菜の持ってきた企画は、セレブの生活を密着取材して、『シンデレラ』に掲載する―庶民にセレブの生活を知ってもらおうというものだった。
この企画に、悠月は露骨に嫌がってたし、ノエルは興味なし。未来は面白がっていたがただそれだけ。
千早と悠月の兄皐月さんは物腰こそ穏やかだったが、俺達に協力してみたらと他人事。
ま、誰だってそうだ。
ゴシップ雑誌の策略かもしれないのに、ほいほい話になんて乗るわけない。
わけない
―なかったんだが。
俺は、高梨明菜というこの女に興味が湧いた。
自分が青臭くて甘ったれなのを開き直り同然に肯定しつつも、俺達相手に物怖じしない。
―面白いと思った。
『週間シンデレラ』を大衆紙に変えたい下心も天晴れだ。
「いいぜ―引き受けてやる」
半ば諦めかけていた高梨明菜は、はっと顔を上げて俺を見た。
「遼一くん?」
「お前、本気で言ってんのかよ?相手はゴシップ記者だぞ!」
驚くノエルと未来、露骨に嫌がる悠月に俺はニヤリと笑う。
「それじゃあ…取材させていただけるんですか?」
高梨明菜は半信半疑の体ではあるが、顔が高揚していた。
その取り引きの直前、俺は明菜とポーカーの勝負という余興をして見せ、負けてやった。
一応というか通過儀礼みたいなもん。
「子細はお前んとこの上司と日を改めて打ち合わせって事でどう」
俺には抱えている連載や映画の脚本、新作の執筆と仕事が山積みになっている。
「これ、俺の名刺」
すい、と名刺を差し出すと高梨明菜も急いで名刺を差し出してきた。
「仕事の調整ついたら連絡すっから」
「は、はいっ」
名刺を交換してもまだ信じられないようだ。
「これから編集部に戻って、上司に報告します
」
「おう」
俺は立ち上がった高梨明菜に近寄る。
「な、なんですか」
「エントランスまでエスコートしてやるよ」
するりと腰に手を回す。
こいつの腰はあの時もそうだが、細くて括れてるのが布越しに伝わってくる。
白いドレス姿の時も腰に手を回してエスコートしてやった。
その時の高梨明菜は今の地味さが嘘みたいに化けていた。
あの時も一度裸体は拝んでいるが、酔いつぶれて寝たのを介抱しただけだから堪能はしてない。
「また、楽しませてくれよな」
耳元に唇を寄せて囁くと、かかる俺の吐息にこいつの体がびくっと震えた。
「もうっ!皆見てるのに何するんですかっ」
耳まで真っ赤になって抗議するこの反応たるや最高。
「見てないならいいんだな?」
「何でそうなるんですかっ」
明菜が身をよじるから俺は手を離した。
いちいちこいつの反応って、面白い。
もっとからかいたくなる。
「一人で帰れますから大丈夫です!」
明菜はVIPルームのドアを開けた。
「迷子になったら帰って来いよ」
「馬鹿にしないでくださいっ」
意地悪く言うと明菜は眉を吊り上げドアを乱暴に閉め―られなかった。
重厚な材質だからな。
俺が面白がっていると明菜はますますフグみ
たいに頬を膨らませ、怒り肩でドアを閉めた。
悠月達が何か言ってるが俺は打ち合わせの日が楽しみで仕方なかった。
今度会ったらどんな顔見せてくれるだろうか―と。