眠らぬ街のシンデレラ

□玉兎の夜
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週刊シンデレラをゴシップ雑誌で終わらせたくない。

その決意がなかったら、高級ホテルサンドリオンでのあの人との出会いも、週刊シンデレラの継続もなかった。
私の無茶な頼みを引き受けてくれた新進気鋭作家、廣瀬遼一。

私をよくからかうし、ふざけたような人に見えて、それでいて仕事はしっかりこなす―。
廣瀬さんって、つかみ所が分からない。

あの人を意識しだしたのって、いつからだろう…。

私、気がついたら、廣瀬さんの事、考えてる。


デスクに置いていた携帯のバイブレーションの振動で、私は我に返った。
着信を見ると『廣瀬遼一』の表示。
あまりのタイミングの良さに、私は変にドキドキしてしまう。
「はい」
電話に出ると、
「よお、今大丈夫か」
廣瀬さんの電話越しの声…耳に心地良い。
「はい。どうしたんですか?」
廣瀬さんの声って、何でだろう…聞いてるだけで、胸の中が温かくなる。
「週末、予定空けとよ?」
「―へ?」
唐突に言われた私は、変な声を上げてしまう。
そしたら、電話越しに廣瀬さんが可笑しそうに笑いだした。
「お前、もう少し女らしい声だせねーの?」
「ひ、廣瀬さんがいきなり要点だけ言ってくるからじゃないですか」
私は少しむくれる。
「そんなのいつものことだろ?」
…だから、要点先に言って、後から説明するその癖に着いていけないんですけど…。
小説の構成は完璧に作るのに…。
それか、まとまってるから、要点だけ話す癖がついたのかな?
「不意に言われるこっちの身にもなって下さい」
「夕方、サンドリオンのVIPルームに集合な」
って…人の話、聞いてないし。
「VIPルームにですか?」
「そ。悠月達も久々に時間取れるっていうから、週末はそこでパーティーする事になったんだ」
「分かりま…ええっ?」
私の知り合いは、世界の違うセレブな人達。
悠月さんは映画のロケで缶詰で、ノエルさんもサーキットの海外遠征で、未来くんも忙しらしく、千早さんも病院の仕事に追われていた。
廣瀬さんもここのところ仕事で、なかなか皆に会えなくて少し寂しかった。

…特に、廣瀬さんに会えない日は。

「皐月さんの段取りですか?」
「お、良い勘してるね」
皐月さんは、サンドリオンの若いオーナーで、悠月さんのお兄さん。
「でも、どうして私を?」
「誘うのかって?明菜は特別だから、良いんだよ」
特別…その言葉に胸がドキドキする。
「あ…パーティーならドレスが要ります
ね」
「いや、いつも通りの服で来てくれたらいいから」
「いつも通りって、スーツになっちゃいますよ」
「うん、それでいいから。じゃ、仕事戻るからな」
ぷつんと、電話は切れた。
「…まさか、マーシャさんに…」
大柄なおネエ系の、メイクアップアーティストの顔が浮かんだ。
わざわざ、私のメイクとドレスアップの為だけに、都合付けてもらったんじゃ…。
…なんて、これじゃ自惚れだよね。
「高梨ー!次の記事の企画の会議、始まるぞ」
先輩記者の声に、私ははっと、手帳をめくり、スケジュールを確認した。
「すぐ行きます!」
いつも私の企画は却下されるけど、今回も負けずにがんばろう!。
私は、筆記用具を手に会議室に急いだ。
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