王子様のプロポーズ2

□二人のアヤカ
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八神綾香。
しがないパン職人でしかなった彼女は今や、フィリップ王国はもとより、世界中から注目を浴びる人物となっていた。
ヘンリー王子の見初めた女性であり、未来のプリンセスなのだ。
時々、ヘンリー王子の公務に同行したり、王室の開く晩餐会やノーブルミッシェル城のパーティーへ出席したりと、彼女の世界は変わりつつある。
しかし世界中が、彼女を認めたとは言い難く…。

(…セフォン財閥のパーティーにお招きされたものの…)
フィリップ王国でも指折りの財閥のパーティーに、ヘンリー王子と共に招待された綾香だが、ヘンリー王子が当主や重役らに挨拶の為離れた途端、彼女は、早速財界の令嬢らに囲まれていた。
(うう…こういうのって、イジメっていうんじゃ…)
ねちねちと、所作がフィリップ王国のプリンセスらしくないだの、ダンスは及第点を告げられ、立ち居振舞いが美しくないだのと、好き勝手言われまくっていた。
(ヘンリー様にご迷惑をかける訳にはいかないし…腹は立つけど我慢しなきゃ)
「オリエンス屈指の八神財閥のお嬢様なら納得しますけど、ただの八神の娘がどうやってヘンリー様のお心を射止めたのか教えていただきたいわ」
ただのをやたら強調するのは、パーティー主催者のセフォン家の娘、シャンティアだった。
自分もヘンリー王子にアタックしていた分、綾香に対するやっかみは凄まじい。
(…こういうことするのって、品がないなあ…)
綾香のはらわたはかなり煮えたぎっていた。
「ヘンリー様と交流を深める事ができたことは、私としても身に余る光栄でございます」
必死に言葉を選ぶ事しかできない。
「型通りですこと…そう話すように台本をお作りになられたの?」
完全なる上から目線。
ヘンリー王子の同伴者に対する敬意も何もない。
「私がヘンリー様にどれだけ想いを寄せても、あの方は振り返らなかったのに…何故貴女みたいな女に」
周りはシャンティアの取り巻きで、巧みに綾香を囲んでいる。
「ヘンリー様のプリンセスは、私のはずだったのよ」
根拠は何だ…内心綾香はうんざりしていた。
「それなのに一般人の貴女が」
「失礼ながらシャンティア様」
最早、我慢の限界。
綾香は強い視線をシャンティアに向けた。
その強い視線に、シャンティアが口をつぐむ。
「私は至らないプリンセスです。素養も教養も、学ばなければならないことがまだまだあります」
言わずにはいられなくなっていた。
「ヘンリー様に見初められたからには、あの方に、王室に恥ずかしくないよう努めております」
「生意気な!何がプリンセスよ!お前みたいな女なんて認めない!」
激昂したシャンティアの平手が、綾香の左頬に叩きつけられた。
「お前が悪いのよ!私をセフォン家のシャンティアを侮辱したからよ」
綾香は動じる事なく、シャンティアを見る。
争う声や音に、流石に周りがざわめき出した。
「皆様!この方はヘンリー様のプリンセスの立場を利用して、私を侮辱しましたのよ!」
すかさず、シャンティアは声をあげた。
「ヘンリー様は今すぐに、この方を王室から追い出すべきですわ!」
「勝手な事、言わないでくれる?」
凍えた声が、一瞬で会場を凍りつかせた。
ロイドを伴ったヘンリー王子が、戻って来たのだ。
「貴女との縁談はきっぱりお断りしたよ?かなり昔に」
「ヘンリー様!」
「彼女は、一般人だ。それは現実だよ」
宝石のような青い瞳が、シャンティアを容赦なく射抜く。
「だけど、その一般人の血が俺にも流れているんだけど?」
あのSたっぷりの笑みをヘンリー王子は浮かべた。
「彼女を随分、愚弄するみたいだけど、それはフィリップ王室すらも愚弄する行為と見なすよ?」
ヘンリー王子の祖母は、オリエンス出身の一般人。
それは有名な事実だ。
「伝統も尊重するが、おろそかにしてはならない大切な事がある」
祖父、全国王の言葉をヘンリー王子は呟く。
「俺は、自分の気持ちに素直に従ったんだ」
気遣うようにヘンリー王子は、綾香の頬に触れた。
「腫れてるね…痛いだろう」
「いえ、平気です」
ヘンリー王子の手に、指を添え綾香は微笑する。
「別室へ行こう。冷やさなくては」
セフォン当主が慌てたように、平身低頭する。
「娘が大変なご無礼を!ご案内致します!こちらへ」
綾香はヘンリー王子に守られるようにして、会場を後にした。
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