王子様のプロポーズ2

□焦がれる想い
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自分をペット扱いし、果ては情報を聞き出す為だけに、フェアリーチェスとかいう色駒にしたりと、とんでもない人格者に自分は恋している。
「…あり得ない」
確認するように綾香は、間借り用にあてがわれた客間のベッドの上でクッションを抱え呟いた。
しかし、嫌いな筈なのに頭の中には、ヘンリーの顔が浮かんでくる。
「王族の方だよ?しかもとんでもない腹黒ドS王子だよ?…なんで」
好きになってるんだろう…。
言葉を飲み込み、クッションに顔を埋める。
身分違いだし、好きになってはいけないのに。
「…このフィリップ王国を守りたい…あの決意を知ったから?」
その為に誰にも本音を見せず、誤解され陰口を言われて孤立している。
自分だけは味方でいたい…自惚れているかも知れないが、孤軍奮闘しているヘンリーを知るにつれ、彼を支えたいと思うようになった。
「…王室とか政治とか、全然分かんないけど」
ある日見たヘンリーの寂しそうな顔。
彼の境遇なんて関係ない、だけど。
「本当のヘンリー様を知りたくなっちゃったのよね」
犬扱いも逆手に取るようにもなった。
「でも…気づかれちゃダメだ」
万年筆が見つかるまでの契約。
見つかったらフィリップ王国をヘンリーの元を去らなくてはならない。
「ん?」
気配を感じて顔をあげるとー
「やあ、ラッシー」
白い頬に金の髪を纏わせたヘンリーが、目の前にいた。
「ひえっ!」
自分でもあり得ない動きで、綾香はベッドの縁ギリギリまで飛びすさった。
「…全力で拒絶なんて、酷いなあ…」
凄く傷付いた顔を作ったヘンリーが、わざとらしくため息を吐いた。
「そこ、全力でお出迎えじゃあないのかな?」
「だだだ、だっていきなりいらっしゃるから」
防衛本能か、クッションを体の前につき出していた。
「って、女の子の部屋にノックも無しに入って来ないでくださいよ!」
「人聞き悪いなあ。ノックしたよ」
ややむすっとして、ヘンリーは反論する。
「部屋を覗いたら、ラッシーが念仏唱えていたからいつ気がつくかなあと」
「念仏…」
どこでオリエンスの宗教用語を知ったのか。
「万年筆が見つかるように祈願?」
綾香は本気で思った。
この人の頭を凍らせた豆腐の角で殴りたいーと。
「ええ、そうですよ」
にこお、と綾香は張り付いた笑みを浮かべた。
…とりあえず、この独り言は聞かれてないようだ。
「早くシャルルに帰りたいですから」
嘘。
帰りたくない、傍に居たいのが本心だ。
「俺は、嫌だな」
「え?」
その呟きにどくん、と心臓が跳ねる。
ふわりとヘンリーは笑い、言った。
「優秀な名犬に巣に帰られたら、困るよ」
瞬間、綾香の全身はぴきぴきと強ばった。
「あまりペットをからかいすぎると、咬まれますよ」
(王子じゃなかったら、ぶっ飛ばしてるのに!)
「じゃあ程々にしておこうかな」
にこやかにヘンリーは言うと、
「ラッシーの反応が面白すぎて、用件を忘れるところだった」
「…私で遊ばないでください」
今度は綾香がむすっとなる。
「明日から1ヶ月、公務で城を留守にするから、その間の食事のレシピをまとめて俺に渡してくれる?」
「…その為だけに、わざわざ私の部屋まで?」
ヘンリーは頷いた。
「飼い主がペットのご機嫌伺いに来るのは、当然でしょ」
…凍り豆腐はどこだ…
「今日は1日国策を論じる会議があるから、ラッシーとお散歩できないからね」
「そう、ですか」
変な寂しさが、綾香の胸にわく。
連日ヘンリーは忙しそうだ。
ここの所、二人で散歩できていない。
「滋養の付くレシピを作りますね」
「うん、よろしくね」
と、ヘンリーのスマホが鳴る。
「ロイドか」
画面を見ながらヘンリーは電話に出る。
綾香に小さく手を振り、ヘンリーは出ていった。
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