王子様のプロポーズ2

□君とカフェラテを
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双子であることをカミングアウトし、第一王位継承権が正式に確定したその後のクオンの毎日は、慌ただしかった。
マスコミやテレビの取材攻勢に向き合い、公務に追われる日々。
取材で今でも追及されるのは、双子であることを王室が何故隠さなければならなかったのか、外交先の国々に対して行われたのは入れ替わり外交では?と厳しく追及されていた。
その件については、シオンと入れ替わり外交した先方には謝罪に赴くより他ないと釈明するしかなかった。
クオンとシオンが双子であることを王室が伏せたのは、国王の判断だろう。
王室転覆を狙う輩に利用されまいとしたのかもしれない。
「クオン様、朝顔テレビの取材のお時間です」
ケントの声に、クオンは我に返った。
「いつまで槍玉にされるんだよ」
ため息混じりにぼやくと、ケントも眉をひそめる。
「これまでにないゴシップです。向こうも絞り尽くすまで、王室にクオン様にかじりつくつもりです」
「だろうな…綾香は」
「取材はご容赦願いました」
ケントが尽力し、次期プリンセスとされる明菜の取材だけはどうにか免れていた。
「いつもありがとう、ケント」
「お礼には及びません」
ケントはクオンに微笑する。
「さて、じゃ行くか」
「は」
ケントが扉を開け、クオンが出たその先に綾香が居た。
「綾香」
固い表情で綾香は寄って来た。
「…私だけいつも安全なとこにいるね…」
「アンタは俺たちのこの件については何も知らない。ホントの事だろ」
「それは…」
「誹謗中傷の槍玉になっていいわけない」
「でも…何だかこれじゃ、メディアのイジメじゃない!」
綾香の瞳が涙で潤んでいた。
「今まで周りを欺いていたのは本当だし、こうなることは覚悟してたよ」
クオンはぽん、と綾香の髪を撫でた。
「泣くなよ。アンタが泣いたら取材に集中できないだろ」
「う…ん。ごめん」
クオンが目尻の涙をその指先で拭う。
「帰ったら、とびきりのカフェラテ淹れてやる」
泣き笑いの顔で、綾香が頷く。
「ネコのラテアートが良いな」
「オーダー、了解」
綾香に微笑み、クオンはケントを伴い城を後にした。

テレビの取材で樽ほど絞られたクオンが帰ったのは、その日の夕方。
自室に戻り、正装を脱いでいると控えめに扉がノックされた。
執事はノックはしない。
ケントではない。
「クオンくん?いる?」
一番聞きたかった人の声に、クオンの顔が綻ぶ。
「うん、少し待って」
クオンは着替えると、扉を開けた。
「あの、帰って来たって聞いて…いてもたってもいられなくて…」
綾香が不安そうな顔で、見上げてきた。
彼女にこんな顔、させたくなかったのに。
クオンは胸が苦しかった。
彼女の腕を掴むと、胸に抱き寄せた。
「クオン、くん?」
「アンタにそんな顔、させたくなかった」
柔らかな体の感触が、クオンの腕に体に伝わる。
「今だけだから。もう少し、我慢して」
「…こういう時はお帰りなさい、だよね」
「え?」
クオンの腕の中で、綾香が頬を寄せてきた。
「私にできるのは、笑顔でクオンくんを出迎えることだったのに、プリンセス失格だね」
「じゃあ、今からやり直しな」
綾香の体を離して見下ろすと、綾香は笑って頷く。
「お帰りなさい、クオンくん」
「うん、ただいま」
言って、クオンは唇を重ねた。
「クオンくん…!」
「チューも忘れてたぞ」
顔を真っ赤にする綾香が可愛くて、クオンは扉を閉めると綾香をまた抱き締めた。
「あ、クオンくん」
「疲れたから、癒して」
こめかみ、耳たぶ、首筋とキスを落とすと綾香の甘い吐息が漏れる。
「も…ケントさんが来るかもしれな…あ…」
クオンの与える刺激に、綾香の体が震える。
男の欲求が更に刺激されるが、クオンはどうにか自制した。
「もっと可愛がってやりたいけど」
名残惜しげに、綾香の指先にキスをする。
「アンタとの約束もあるし、まだやることあるからな」
「やく、そく?」
艶っぽい顔のまま、綾香に見上げられるとクオンのある部分が反応しそうになり、内心慌てる。
「もう、そんな顔するなよな」
息を整え、クオンは言った。
「カフェラテ淹れてやるって約束したろ?ラテアートをさ」
「…あ、うん!」
「部屋まで来てくれて嬉しかった。また、後で、な?」
ちょうどその時、ケントが入ってきた。
「さっすが執事…ベストタイミング」
クオンはぼそりと呟く。
ケントは綾香がいることに、気まずそうになる。
「失礼しました。お二人のお邪魔をしてしまったようですね」
「いや、要件は済んだから良いよ」
綾香もぎこちなくだが、こくこくと頷く。
「じゃあ、私部屋に帰るね」
「うん」
綾香が退室すると、ケントは申し訳なげに主を見る。
「本当によろしかったのですか?」
「言ったろ、要件は済んだって」
「作用でございますか」
安堵したように、ケントは胸を撫で下ろす。
「で、何」
「オリエンス王室恒例の紫陽花観賞会の事でございます」
オリエンス王室の人間が集う、紫陽花庭園での茶会の事をケントは告げてきた。
「クオン様、シオン様揃って出席されていた席ではございますが、綾香様にはこの席に出席していただかなくてはなりません」
「…わかってる。そこばかりは避けて通れない」
王室の槍玉にされるだろう。
でも…守り抜く。
「当日の衣装の方は大丈夫か」
ケントは自信の笑顔を浮かべる。
「オリエンス王室のプリンセスに恥じない、最高の一袖をご用意致しました」
ケントの言葉に、クオンは満足そうに頷いた。
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