恋人はSP

□想えばこそA
2ページ/12ページ

聞こえてきた物音に、北条は目を醒ました。

視界に映り込んだのは、見知らぬ天井…。
のそりと起き上がると、二日酔いの頭痛が北条を襲った。
「いっ…」
こめかみを押さえながら辺りを見回す。
壁には夏の海を写した写真が何点か飾られていて、ブルーを基調にした部屋だった。
蛍光灯に下がる紐には、デフォルメされたイルカが揺れている。
「私の部屋と違う!」
北条は、慌てて自分の身体を見た。
ブラウスとタイトスカートは、シワになっているが身体をどうこうはされていない。
ジャケットはハンガリーにかけられ、吊るされていた。
ほっと安堵しつつも、昨日の事を振り返った。
そう…ワインバーで飲んでいたが、風間伸也が強引に自分を連れ出し―
「風間っ!」
北条は大きな声を出した。
「はい?―あ、起きたんですね」
イルカのアップリケのエプロンを着た風間が、顔を覗かせた。
「おはようございます。警部補殿」
「ここはどこ?」
「俺の部屋ですよ」
さらりと風間に答えられ北条は固まった。
「な…んですって!?」
「…泥酔して起きなかったのはどなたでありますか?」
「え?」
「タクシーでご自宅まで送りたかったのに、ちっとも起きないんで仕方なく」
風間の眉がひきつっていた。
「やっぱりやけ酒じゃないですか」
「…………」
風間は、呆れ混じりのため息を吐いた。
「一人暮らしなんで家族の心配はしなくていいですよ」
風間は自分のジャケットを手にすると、北条に差し出した。
「俺のだけど、これ着てください」
「自分のがあるわ」
「あんな上品なの着て、朝飯食べるんですか」
風間は呆れ顔になる。
「あ、朝飯食べられそうですか?」
「料理するの?」
昴も朝食を用意してくれていたが、昴はいつも和食だった。
「まあそれなりに」
「軽くいただくわ」
北条はジャケットを羽織るとベッドから出た。
「どうぞ」
出されたのはなめこの味噌汁。
「これ飲んで食べられそうならご飯もだしますよ」
「これで充分よ。ありがとう」
湯気の立つ味噌汁を口にする。
「美味しい…」
「本当ですか?」
嬉しそうに風間が聞いてきた。
「最近自炊はしていなくて久しぶりに作ったんで、嬉しいです」
「そ、そう…」
風間に貸しを作ったかと思うと、ばつが悪い。
「ところで風間」
「はい?」
「どうして私を放っておかなかったの?」
「どうしてって」
きょとんとした顔を風間はする。
「酔いつぶれた上司を放っておけないでしょう」
…正論だが、腹が立つ。
「男にフラれでもしたんですか?やけ酒なんて」
風間に悪意はない。
しかし、正鵠的を射る言葉に―
「お前、絶対女にもてないわよ!」
北条は今度こそ平手を食らわせた。


―その翌日―

捜査一課はとあるリゾートホテルから犯行予告があったと一報を受け、緊張が走っていた。
「このホテルって、環境活動団体と揉めながらも、強引に竣工された所ですね」
資料に目を通しながら北条が言うと、森口警部が頷いた。
「このホテルは、地域活性を銘打って開発された」
地域住民の一部や環境活動団体からの反対を押しきり建てられたリゾートホテルは効果をあげた。
四季事のイベントも盛況で、地元雇用も奨励していた。
「このホテルは、建設20年目の節目を祝って祝賀パーティーが開かれる」
建設を強引に推し進めた津田議員が主催するとあって、彼に恨みをもつがゆえの犯行予告のようだった。
取りやめないならパーティー会場の出席者の身の安全は保障しない…津田議員から出席者全員までが対象になっていた。
「はた迷惑な事ね」
津田議員は警備を万全にした上でパーティーを予定通り行うという。
「我々もホテルの警備に加わる事になった」
森口の顔がとても硬い。
「それから、当時津田議員に関わっていた平泉総理も出席され、ファーストレディとしてご令嬢も同行されるそうだ」
全員に、また違う緊張が走った。
「津田議員は二人に出席してもらう事でリゾートホテルの正統性をアピールしたいようだ」
平泉総理の一人娘は姓名、容姿はトップシークレットであり北条も閲覧は叶わなかった。
一般人であり、総理の庶子…総理は娘に配慮したのだろう。
(総理の娘じゃなかったら苦労もなかったのに)
北条は軽く息を吐いた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ