恋人はSP

□想えばこそB
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島田の供述と後藤ら公安の調査で水嶋加菜恵の身辺が洗われ、今回の犯行予告を出した事も判明した。
「津田議員には詳しく話を聞く。だから、こんなことは止めろ」
桂木が水嶋を説得する。
「止められるくらいなら、始めからしませんよ」
水嶋は桂木の言葉をはねつける。
「それに、立て籠る気は更々なかったし」
「だろうな…立て籠る気ならマスターキーをフロントから奪っているはずだ」
「警察組織に要求も何もないもの…必要ないでしょう?」
水嶋は言った。
「父が守ろうとした…私が奪われた大切な存在は二度と帰って来ない」
水嶋の口元が歪む。
「全部忘れて生きてなんて、いけるわけない!!そんなの綺麗事よ」
明子の頭部に更に銃口が押し当てられる。
「一柳、任務を遂行なさい?総理のご令嬢を守りたいなら私を撃つのね」
明子の目前で射殺して見せろと、水嶋は暗に言ってきた。
「じゃないと、貴方と総理の大切な存在を失うわよ」
「は…早くその女を射殺しろ!正当防衛だ!」
津田が味方を得たとばかり喚きだした。
「あんたは黙ってろ!」
津田に昴は一喝した。
「な…何だと!」
「水嶋は必ず確補する」
色を無くす津田を無視し、昴は明子を見詰めた。
「すぐ、助けてやるからな」
昴に、明子は黙ったまま強く頷く。
「私を撃たないと彼女が死ぬわよ」
「明子は死なせない」
銃口を水嶋に向けたまま、昴は言い放った。
「津田議員と平泉総理への復讐がこれか」
「予定変更したのよ」
水嶋は津田に視線を送った。
「なかなか告白してくれないから殺しそびれたし、お嬢さんは起きちゃうし」
水嶋は軽く頭を振った。
「だから、津田が告白してくれたら命は助けてあげて、総理のご令嬢を殺すで交渉成立したの」
水嶋が冷笑する。
俯いた明子の様子がそれを肯定していた。
「なっ!?」
海司が唸った。
「さいてー」
そらが津田を冷眼で睨む。
「命惜しさに、一般人を差し出すとか代議士失格ですよ」
瑞貴の表情も凍てついていた。
桂木、昴に至っては怒りの余り表情がない。
津田は更に色を無くしていた。
「わ、私はこの女にそうするように言われただけだ!」
「あんたは黙ってろって言っただろうが」
喚く津田を、昴の怒りに満ちた低い声が押し黙らせた。
「弁解も言い訳も後で聞いてやる」
「さあ、彼女を守れるかしら?王子様」
その言葉に昴は不敵に笑って見せた。
「俺を誰だと思ってる?」
昴達が駆け付けるまでどんな目にあったのか、明子の体には弾丸の掠めた痕が痛々しく浮き上がっている。
「俺は明子の専属SPだ」
水嶋の注意は完全に桂木班に、昴に向いていた。
いや、そう仕向けた。
だから、水嶋は伏兵に気がつかなかった。
絶妙なコントロールで投擲されたボール状の物が、水嶋の顔面にヒット、目潰しの粉を撒き散らす。
「なっ!?」
突然の事に明子向けられた銃口が僅かに反れる。
それで充分。
昴は水嶋の肩口に発砲した。
着弾の反動で、水嶋の体が横転する。
「確補!」
桂木の号令に、桂木班は迅速だった。
瑞貴、そらが水嶋を拘束し、桂木と海司が津田を保護した。
そして、昴は―。
「明子!」
手錠を外してやり、その腕にしっかりと抱え込んだ。
「悪い…遅くなった」
「いいえ…昴さんを信じてました」
詫びる昴に、ふわりと明子は笑う。
「大丈夫…じゃないな」
身体中掠めたとは言え、寝間着は弾痕で焼けた跡だらけで、体も右肩も出血していた。
「すぐに病院に行かないとな」
止血帯がわりにネクタイを外して縛り付ける。
「昴さん…ネクタイ」
「こんなもの、いつでも買えるさ」
申し訳なげな明子に昴は笑いかけた。
背広を脱いで体にかけてやると、横抱きに抱き上げた。
明子は恥ずかしそうにしながらも、昴に全身を預けてきた。
その表情は、とても安心していた。
「負傷者の搬送なら、お手伝いします」
風間がアザだらけの顔で、昴に声をかけてきた。
全身ぼろぼろの北条も共にいた。
「二人の世界を邪魔して悪いわね」
二人の様子に、明子の表情が曇った。
「北条、お前の部下に助けられた」
「そうね。元野球部の実力は本物だったみたいだし?」
目潰しを投げたのは北条の部下、風間だった。
「あの…ありがとうございました」
明子は昴の腕の中で風間に礼を言った。
「お力になれて光栄であります!」
総理の令嬢に礼を言われた風間は、上気した顔で敬礼した。
「さ、早く行きましょう」
昴は頷くと桂木達を振り返った。
「ここは任せろ」
桂木が笑って促した。
「―はい。あとはよろしくお願いします」
昴は、北条と風間に誘導され明子を病院へと連れていった。
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