恋人はSP

□桜姫
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二人で夜桜見物をし、明子はアパートまで、昴に送ってもらった。
「遅くなっちまったな」
「いいえ、今日は昴さんと桜が見られて嬉しかったです」
玄関先で明子は嬉しそうに言った。
「……」
昴の手が、明子の頬に触れた。
「昴さん?」
「ホントは、俺の部屋に連れて帰りたいくらいだ」
その言葉に明子の顔が赤くなる。
「ずっと、お前を独占していたい」
「昴さん、ここまだ玄関先…」
昴に熱く見つめられ、明子は何も言えなくなる。
昴の手が、明子の頬に触れそっと包み込む。
「今度は明るい時に桜見物ができるといいな」
「はい」
微笑んだ昴の唇が、明子の唇に重なる。
「ん…」
視界を閉じた明子の身体中に、昴の唇の温もりと頬に伝わる彼の手の感触が広がっていく。
(昴さんを感じる…)
彼を感じるほど、自分でも解るくらい心臓の鼓動がうるさくなる。
明子は昴の胸に添えた手をきゅっと握り締めた。
「お前、心臓の音凄いな」
唇から耳元へキスを落とし、昴が囁く。
「だって昴さんを感じるから…っ」
首筋を這う昴の唇の動きに、明子の体が悶える。
「感度良すぎ」
昴は不満そうに明子の唇を軽く吸った。
「…何で明日休みじゃねーのか」
そっと手を離すと、
ぼうっとした表情の明子が見上げてきた。
「あんまりやり過ぎると、我慢できなくなるからな」
昴は明子を抱きしめ、髪を優しく撫でた。
「じゃあな、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
昴が体を離す。
お互いに微笑みを交わし、明子は昴を見送った。
(まだ昴さんの感触が残ってる)
自分の体のそこかしこに、昴の触れた感覚がある。
遠くなる昴の車のエンジン音に、明子は願わずにはいられない。
(もっと昴さんと一緒にいられたらいいのにな…)
と。


昴は自宅へ車を走らせていた。
まだ明子の感触が自分の身体中に残っている。
空っぽの助手席には、昴が彼女にプレゼントしたフレグランスの残り香が香っていた。
(あのままじゃ、理性がどうにかなってたな)
昴は自分の正直さに苦笑いした。
体を重ね合って、好きな人の存在をもっと感じたくなる。
昴は、独占欲が人一倍強い。
職務上、なかなか会えない日が続いていた。
勤務形態によっては休みだってなくなったりする。
(休みが取れたら、どこかに連れていってやりたいな)
いつも昴に合わせてくれるのは嬉しいが、明子が楽しんでいるのか不安になってくる。
わがままも言わないし、何かをねだることもしないから
男としては物足りなくある。
…されすぎも迷惑だが。
(あいつ…髪長くなったな)
初めて会った頃より明子の髪は長くなった。
晩餐会や公務で着るドレスに似合う髪型を意識して、少しずつ伸ばしていったのだろう。
髪のケアも手ほどきしてやっているおかげか、傷みもなく綺麗だった。
今度、ショッピングにでも連れていって、髪飾りやアクセサリーを一緒に選ぶのも良いかもしれない。

(次の休暇までのおあずけか)
男としての欲求をくすぶらせたまま、昴は車を走らせた。
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