恋人はSP

□桜姫A
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翌日、明子の大学まで昴に送ってもらった。
「ありがとうございました」
「勉強頑張れよ」
「はい」
車から降り、明子は昴に笑顔を向けた。
「昴さんも、お仕事頑張ってください」
「ああ」
頷いた昴は、軽く眉をひそめる。
「部活で遅くなりそうなら、迎えに行ってやりたいんだがな」
毎回仕事が早く終わるわけでもない…。
しかし、部員の男に明子を送らせる訳にはいかない。
「私なら大丈夫ですよ。ちゃんと防犯ベルもありますから」
明子のバッグには赤い防犯ベルが下がっている。
「近くには民家もあるし、いざとなったら、駆け込みますよ」
「お前な…」
明子の身体能力で、不測の事態に反応出来ない事を 知っている昴は、呆れ顔になる。
「俺が信用のおける奴を大学まで向かわせるから、そいつに送ってもらえ」
あくまでも、と昴は前置きした。
「俺が、仕事で来れない時だがな」
「私なら大丈夫ですよ。昴さんや他の人に迷惑をかける訳には…」
明子は、軽く首を横に振る。
「お前は、遠慮し過ぎる。最近はどんどん物騒になってるんだ。頼る時は、きちんと頼れ」
昴の眼差しには、明子を想う光が強い。
(昴さん…)
意地を張っても昴を困らせるだけ…。
明子は、頷いた。

「はい。遅くなりそうなら、メールします」
「それでいい」
昴は、安堵の笑みを浮かべる。
「じゃあな、行ってくる」
「はい。行ってらっしゃい」
明子は、昴の車が見えなくなるまで見送った。


「昴さん、今日も元気に帰ってきてください…」
明子がぽつりと、呟いた時ー。
「ふふふふ」
急に聞こえてきた笑い声に、明子は文字通り飛び上がった。
辺りを見回すと、街路樹の陰から、柳幽霊の様に半身でこちらを窺う小杉と、みどりの姿があった。
「昴王子と相変わらず仲の良いことね」
「いつもいつも、ラブラブで羨ましいな〜」
飄々とした小杉と、半目で明子を見るみどりに、明子の顔は真っ赤になる。
「いつから見てたんですか」
「さあ?いつからだと思うかしら」
二人とも、明子の反応を面白がっている。
「体調はもうよろしくて?」
「は、はい。稽古が遅れている時に、すみませんでした」
昴との情事が原因だが、流石に言えない。
「いいのよ、体の事だもの仕方ないわ」
小杉は頷く。
「明子は、頑張り屋だから疲れが出たんだよ」
みどりも気遣ってくれる。
その二人の心使いが、胸に痛い。
「稽古遅れたぶん、頑張ります」
「もう!病み上がりなのに、
ぶり返しちゃうよ!」
心配するみどりに、明子は首を横に振る。
「本当にもう大丈夫だから」
「…明子の大丈夫は、当てにならないんだけど」
みどりは苦笑いする。
「その意気や良し!ただし無理は禁物よ」
小杉がポンと、明子の肩を叩いた。
「はい。頑張ります」
明子は、小杉やみどり等と大学構内へと入っていった。


彼女らが構内へと姿を消した時、一台の車が静かに路肩へ停車した。
「調べさせて。あの娘」
後部座席から女が静かに呟く。
「はい」
助手席の男が、膝に乗せていたバスケットを開くと、一羽の鳩が入っていた。
「行け」
男は開けた窓から、鳩を放す。
鳩は羽音をたてながら、大学構内へと飛び立っていった。
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