王子様のプロポーズ2

□焦がれる想い
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一方、綾香の部屋を後にしたヘンリーは。

ロイドからの電話を終え、来た廊下を振り返った。
ー早くシャルルに帰りたいですからー
あの一言にとてつもなく胸を抉られた。
利用するだけの筈だったのに…。
万年筆が見つかったら、いなくなってしまう。
本音で自分に向かって来て、感情をあらわにし、時に屈託のない笑顔を見せる。
誰かにここまで興味を持つとは思わなかった。
「計算違い?俺は…彼女を」
胸が苦しかった。
いずれ契約は終わる日が来る…。
そしたら、この城からいなくなる。
「ひとりぼっちなんて、慣れた筈だったのに」
愛犬を喪ったあの日、沢山泣いた。
親友だったロイドも王位継承権が確定したとたんに遠ざかってしまい、ひとりぼっちになってしまった。
「…あ?」
視界が歪む。
目頭が自然と熱くなる自分に驚愕した。
「綾香…」
ヘンリーは1人彼女の名を呟いた。


翌日。
ヘンリーは使用人達に見送られ、公用車で公務に発った。
ヘンリーを乗せたリムジンが遠ざかるのを綾香も、離れた場所から見送っていた。
(行っちゃった…)
完全に見えなくなると、寂しさが胸を締め付ける。
普段は顔を会わせれば憎まれ口や、軽口の応酬…それをいつの間にか楽しんでいた。
「あら、綾香さん。こんな所でどうしたの?」
侍女頭のエミリーに声をかけられ、綾香は我に返った。
「あ、どうもエミリーさん」
「ヘンリー様、お車に乗るまで誰かを探してたみたい」
「えっ?」
「だけど、何事もなかったように乗られたわ。どうなさったのかしら」
(ヘンリー様、私を探してた?)
まさかね、と綾香は心の中で苦笑いした。
「いたいた!綾香ちゃん」
料理長があたふたと走ってきた。
「料理長?」
「今日厨房に休みがで出てしまってね。人手が足りないんだ。悪いけど手伝ってもらえないか」
すまなさそうに言う料理長に、綾香は頷いた。
「私で良ければお手伝いします」
「ありがとう!助かるよ」
料理長は安堵の笑顔を浮かべる。
何かに打ち込めば、ヘンリーに会えない寂しさも紛らわせるだろう。
何より、役に立てる事があるなら手伝いたかった。
綾香は久々に、職人服に袖を通すのだった。


ー夜ー
綾香は部屋で心地いい疲労感に包まれていた。
テーブルにはチューハイの缶が。
料理長からのお礼だった。
「別に良いのにな」
料理長の律儀さに、綾香はふふっと笑う。
エミリーにでも頼んだのだろう。
ー女の子には甘いのがいいかと思ってねー
料理長の言葉がよぎる。
「遠慮なくいただきます」
缶にむかい、改めてお礼を言うとプルトップを開ける。
一口飲むと、炭酸とチューハイの甘さが口に広がった。
「くぅ〜美味しいっ!」
しかし城の一角でチューハイを飲むとは、なかなかできない。
「料理長さん、あえてチューハイを選んでくれたのかな」
高いものよりこういった安価な方が綾香には嬉しかった。
「バレンタイン来たら、料理長さんにもチョコじゃなくても何か送りたいな」
…それまでここに居られるだろうか。
ヘンリーに、バレンタインをしてあげられるだろうか。
「ヘンリー様…」
テーブルに置かれたスマホは鳴る気配がない。
恋人でもないのだし、当たり前なのに。
「ちゃんと食事されてるかな…」
寂しさだけが大きくなる。
「!別に寂しくなんか…ないもん」
綾香は頭をぶんと振って、晩酌にかかる。
「ヘンリー様がいなくたって平気なんだから」
何だかだんだん虚しくなってきて、チューハイ2缶を飲み干すと、もそもそとベッドに潜り込んだ。
ふわふわとしたほろ酔い状態は、綾香を眠りに誘ってくれた。

ヘンリーは1ヶ月と言っていた。
しかし、1ヶ月と1週間が明けてもヘンリーは帰って来なかった…。
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