王子様のプロポーズ2

□君とカフェラテを
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オリエンス王室恒例の、紫陽花観賞会当日。
着替える為に通された部屋で、綾香は目の前に掛けられた見事な打ち掛けに、目を見張った。
「こんな綺麗な打ち掛け、私が着ても良いの?」
振り返った先には、優しく笑うクオンがいた。
「当たり前だろ」
着物はオリエンス王室古来の風習であり、王室内の伝統行事でのみ身に纏う。
「アンタの為に、オリエンス王室専属の着物職人が作った打ち掛けなんだから」
「庭を歩く時に、裾が汚れないかな」
綾香が言うと、クオンはきょとんとする。
「私、変な事言ったかな?」
「…紫陽花の一望できる東屋があって、そこで観賞するだけだから、歩き回るとかはないよ」
東屋といっても、庶民の範疇を越えた邸宅だが。
「桜の花見もそうだけど、オリエンス王室古来の花の観賞って、庭は歩かないから」
「……」
綾香は真っ赤になって俯いた。
着付けの手伝いで控えているメイド達の、こらえきれない忍び笑いが聞こえてくる。
「そ、そうだよね。私、あちこち歩いて見るものかと思ってた」
「オリエンス王室の風習の勉強中で大変だろうけど、俺も助けるから頑張ろうな」
クオンはメイド達を一瞥して黙らせると、安心させるように綾香の髪を優しく撫で
る。
綾香は顔を赤くしたまま、小さく頷いた。
「俺は外にいるから、着付け終わったら声かけてくれ」
メイド達に言って、クオンは部屋の外へ出て行った。
残されたのは、やや気まずいメイド達と綾香だけ。
「よ、よろしくお願いします」
「……」
メイド達は無言で綾香の着付けに取りかかるのだった。

暫くして。

「……」
着付けを終えた綾香を見て、クオンは彼女の美しさに思考が完全に停止した。
着物に合うようにメイクされ、髪は付け毛とあわせて後ろでもと結いで束ねられ背中に流されている。
頭部には、紫陽花をあしらったかんざしが差し込まれ、着物と揃いになっていた。
「……どうかな、クオンくん」
綾香は恥ずかしさと不安の、ない交ぜな表情でクオンを見上げた。
「……」
「……クオン、くん?」
はっとクオンは我に返る。
「似合ってない?」
「綺麗いになりすぎてて、人目に出すのが嫌になる」
ケント自信の一袖なのも、納得できた。
綾香はクオンの言葉に、真っ赤になってしまい何も言えなくなっていた。
「きっと皆、アンタに見惚れる」
「そ、そんな事ないよ」
「アンタ、分かってない」
クオンの指先が綾香の顎にかかる。
くい、と持ち上げられた綾
香の視線の先には、クオンの熱っぽい瞳が待ち受けていた。
「観賞会終わったら、ゆっくりしような」
「……」
答えになってないよ……そう言いたかった綾香だが、クオンの眼差しに何も言えなかった。
ただ、頷くだけ。
「よろしいですか?クオン様、綾香様」
ケントがやってきた。
「そろそろお時間で…」
ケントの言葉が途切れる。
綾香の着物姿に、目をみはっていた。
「もう時間か」
クオンはケントに向き直る。
「ケント、見惚れてる?」
「……はい。大変お綺麗で、失礼ながら綾香様に見惚れておりました」
顔を赤くして、ケントは肯定する。
「ケントの見立て悪くない」
満足気な主に、ケントは顔を赤くしたまま嬉しそうに頬笑む。
「恐れ入ります」
恭しく、ケントは一礼する。
「会場へご案内致します。こちらへ」
ケントが二人を促す。
執事に頷きクオンは、綾香に手を差し出した。
「さあ、行こう」
「はい」
その手を取り、綾香は紫陽花観賞会へと赴いた。
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