小説

□純想    ★
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長い長い廊下の一番奥。


誰の足音も聞こえない、大きな部屋で
楊ぜんはひとり机に向かっている。



細かい細工のついた窓を開け放ち
黙々と仕事をしていた。




聞こえてくるのは


静かな風の音と


木々達が囁く声ばかり


楊ぜんは書類に向いていた顔を上げ
気付いたように外を見た。


眩しい位の日差しに
一瞬目が眩むが
そんなことは全く気にしていない。



「ハァ…、仕事つまんないなー」


心底嫌そうに溜息をつく。


しかし、それには別の理由があったのだ。


「もう…どうして会えないんだろう…」


チクンと胸が痛くなる。



「すぐ近くにいるはずなのに……」


同じ敷地内に住んでいながら、
一か月程、太公望と顔を合わせていない。


楊ぜんの顔に悲しみの色が浮かぶ。


「こんなに会いたいのに…」


切ない位に想うのは


愛しくて
愛しくて仕方のない


彼の人のことー…





一方その頃の太公望は

書類や本や仕事等で
散らかった自室のベッドで横になっていた。

寝返りを打つ度
キシリとベッドが鳴る

眠りから覚めたのか
閉じていた目がふと開く。


その瞬間


『師叔』


楊ぜんの声が聞こえた気がした…。


そのまま太公望は
ベッドから動こうとしない。
たまに寝返りを打っては、ボーッと何かを考えている。




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