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□必然。
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偶然ってのはよくあることだ。
たまたま買ったものが被った、とか
行き先に知り合いがいた、とか。
そんな多くの偶然の中で、必然があるんだって---


□■□


4月某日
晴れて第一志望の高校に合格し、憧れの有名高校に入ることができた。
そして今日が入学式。真新しい制服を着てどこか落ち着かない生徒の中に私はいた。

「うわー…」

人が多すぎて前が見えないっていう、ね
入学式だとわかっていながらも自分の性格上早く来ることができなかったため、座席の位置を確認することが出来ない状態になっている。
(これはやべえぞ…早く座りたいし…)
一生懸命背伸びをしてみたり、飛び跳ねてみたり、しゃかしゃか動いてみるが、中々見えない。
まあ少し待つか、と諦めかけた時

「おい、」

えっ、私?と振り返ると背の高い前髪が特徴的な男子生徒が立っていた。

「貴様、ななしのごんべえか」
「へ?」

いきなりなんだ、初対面の人間のはずだ
なのに彼は私の名前を知っている。

「はあ、そうですけど…誰、ですか?」
「石田三成。貴様のクラスは1-x、xx番だ。早く行け」

そう言うとイシダミツナリと名乗る男子生徒はツカツカと自分の座席へと行ってしまった。
なんだなんだ、いきなり人の名前を呼んだと思えばすぐ行ってしまうとは。
ていうかなんでクラス、番号…

「あ、」

ずっと後ろで見られてたのか!うわ、くそ恥ずかしい!変な目で見てたんだろうなァ…若干うなだれながら教えて貰った座席に座った。



□■□



あの入学式から一週間ほど経った。最初はよそよそしかったクラスだったが、今では随分と打ち解けている。

(そういえば、)

謎の前髪くん、もとい石田くんにまだ名前の件を聞いていなかった。
どうやら隣のクラスの風紀委員らしい。
あの時の私の行動を全部見られていたとすると、とても会いたくないのだけれど。
放課後、どこかにいないかと何気なく校舎をさ迷っていると

(あの長身、白髪…は、)

いた。石田くんだ。しかし誰かと一緒にいるみたいだ。それに彼はかなり気が立っているようで、怒鳴り声が聞こえる。
石田くんの声と共に聞こえてくるのは笑いながら制裁する男の声。
その声には聞き覚えがある、ような気がした。

「家康ゥゥ!!何故また貴様と同じクラスなのだァ!!」
「まあそう怒るな三成!これも絆の力だ!」
「黙れッ!絆と口にするな!!」

何やら石田くんはイエヤスという男のことが気に食わないようだ。
関わらないのが一番だな、これは。そう思い踵を返そうとした

「お、ごんべえじゃないか!」

まるで石像みたくぴしり、と固まった。石田くんだけならずイエヤスという男まで私の名前を呼んだ。それに下の名前を。

「どうしたんだ、こんなとこに。何か用事か?」
「えっと、あの」
「気安く話しかけるな家康!!」
「ちょっと、待って」
「だから落ち着けって三成」

おかしいおかしい。名前もそうだけどなんでこんな親しく話かけてくる?
これが彼の人間性なのかもしれないのだけれど。それにさっきから引っ掛かるようなこのもやもやしたものはなんなんだろうか。
頭の中に疑問がぐちゃぐちゃと混ざり思考回路がうまく動かない。おまけにぐるぐると回る疑問で気持ち悪くなってきた。

「大丈夫か?顔色が悪いぞ」
「どうした」

どこかで、会ったことがあるような。

「なん、で私の名前、知ってるんですか」

震える声で尋ねてみる。すると二人は質問がよくわからない、というような顔をした。
え、私変な質問したか?汗がだらだらと流れる。

「あぁ、そうか」

石田くんが納得したように続ける

「貴様は、記憶がないのか」

は、何言ってんだコイツ。記憶?ちゃんとある。小さいときに行った遊園地だって
それ以上昔のことだとでも言いたいのか。

「ああ、そうだ。ごんべえがこの時代に生まれるよりもっと前にワシらは会っている」
「は、何言って、」
「確かにすぐには信用しがたいだろう。だがこれは事実だ。」

会話についていけない。この時代より前に会っている?前世に会っているということ?じゃあこの人らは昔の、自分の前世の記憶がある、いつの時代の?頭が痛い。じゃあなんだ。私の名前を知ってるのは前世で会っているから?いやいやいや、何この電波、怖い。
でもさっきからイエヤスくんからどこか懐かしいような雰囲気がある。何処かで会ったことあるような…本当に私は前世で会っている?何言ってんだ、あるかそんなこと。

「じゃあ、仮に昔に会ったことがあるとします。それはいつの時代の事なんです?」
「戦国乱世の時代だ」
「戦国、時代?」
「ごんべえ、お前は三成の部下だったんだ。それはもう有名で―」

どうやら私は戦国時代にこの人たちに会っているようだ。しかも私は石田くんの部下だったらしい。楽しそうにイエヤスくんがつらつらと昔の私だったらしい人のことを語る。石田くんは
浮かない表情をしている。

「だが貴様はあの時死んだ。」
「―――え」
「私を庇って、死んでいった。私の目の前で貴様は―」
「…三成、」
「うるさいッ!家康ッ!貴様がいなければ…ッ!!」

石田くんを庇って私は死んだ。目の前で。その言葉が頭の中で回る、
―行くなごんべえ、私を置いて行くな!

「…あ、」

騒がしい戦場の中、目の前にあるのは石田軍、いや豊臣軍を率いる石田三成。焦ってどうしたというんだ。私を置いて行く?それにこの体の怠さといい…霞む視界を下へ向けると自分の体に刺さっている刀
(そういえば三成様を庇って…)
そうか、私は死ぬのか。ここで、こんな不安定な三成様を置いて。大丈夫だろうか。彼は一人で、この先生きていけるのだろうか。秀吉様を失って以来打倒徳川家康を掲げて、ただ復讐のためにだけ生きてきたこの方が家康を倒した後
、目的がなくなった彼が心配だというのに。
三成様を心配する脳とは逆に、体はどんどん重くなっていく。三成様が私を呼ぶ声ももう聞こえない。暗くなっていく視界と共に意識が途絶えた。

「今のが、私の、記憶、」
「…思い出したか」
「だから、名前…知ってたんですね二人とも…」
「ああ、そうだ!一目でごんべえだとわかったぞ!」

前世で私が死ぬ直前に石田くんのことを強く思ったから、またこの時代で出会ったのか。だとしたら恐ろしい数値の偶然が?

「ごんべえ、これは偶然なんかじゃないぞ」
「えっ、でも偶然以外に何があるって―」
「必然、だ」

ああ、なるほど。そういえば誰かが言っていた気がする。この世の中偶然の中に、極稀に必然があるって。私が三成様を思うように、三成様も私のことを思ってくれてたからまた出会えたってことか。それじゃあまさしくこれは





(貴方と出会えたのは運命)



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