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□被害者の災難
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何故こうなってしまったのか。我にもまだわからない。家に帰ったら捨て駒が、当たり前のように夕餉を作り、おかえりなさい、と我に笑顔を向ける。何事ぞ…一人頭を抱えた。

「元就様お待ちしてました!ささ、ご飯出来てますよ!」
「帰れ」
「ふふふ、元就様の冷たいところも私は好きですよ!」
「帰れ、家へ」
「今日から私の家はここですから!ほら恋人じゃないですか!」
「誰が誰の」
「私が元就様の」

はぁ、と深いため息をつく。だめだこやつ。完全に頭がおかしい。いつ我が付き合った。告白されたあの時確か我は丁重に断ったはずだ。なのにこやつは我の家にいて我が恋人とほざく。というかセキュリティはどうなっている。赤川め、サボったな。

「今日は元就様の大好きな鮭の塩焼きがありますよー」
「…何故知っておる」
「好きな人の好きなものくらい把握していますよ!あと今日のパンツは緑色ですね!柄はー」

反射的に携帯を取り出し警察にかけようとする。するとななしのは慌ててそれを阻止する。

「何ぞ。ストーカーは警察に行くがよい」
「やめてください私は元就様が大好きなだけですぅぅう」
「離れよ気持ち悪い」
「ひどいです!」

うわぁぁぁと騒ぎ立てるななしの。ものすごく邪魔だ、そして煩い。ななしのを引きずりながらリビングへとたどり着く。するといい匂いがする。料理は上手いのかもしれない。とりあえず椅子に座るとななしのが料理を持ってくる。切り替えの早い女だ。

「味に自信はありませんけどどうぞ!」
「薬は入っておらぬだろうな」
「当たり前ですよ!元就様が寝ちゃったら私つまんないじゃないですか!あ、でも寝顔は見たいですえへへ」

何か言いはじめていたが全て受け流して味噌汁に手をつける。

「どうですか?どうですか?」
「…美味い」
「本当ですかっ!?やったあ!」

とても嬉しそうに満面の笑みを浮かべるななしの。この気持ち悪ささえなければいい女だというのに。残念な美人とはこういうやつのことを言うのだろう。
しかし料理の腕は本物らしい。世辞抜きでとても美味いと思う。…世辞など言ったことないが。

「ふふふ、これなら私元就様のお家にいてもいいですよね!お料理なら任せて下さい!ていうか家事をさせてください!」
「いや、貴様は信用ならぬ」
「なんでですか!?私のどこがいけないというのですか!?どこも悪いところなんてありませんよ!元就様に逆らうなんてことしませんし!家事ならなんでもできますし!」
「不法侵入、ストーカー行為、セクハラ行為、器物破損、盗撮など…貴様にいい思い出はないわ」

長年悩まされてきたこの数々の犯罪。もしこの家に住まわせたら最後、我がどうなるかがわからぬ。女に襲われるなど、絶対に嫌だ。男の一生の恥だ。

「だ、大丈夫ですよ、ここに住まわせていただければそんなことしなくてすみますし毎日一緒に登校できますし!家事も楽になり料理も買わなくていいのですよ!」
「家政婦を雇ってある。家事や料理はいつもそやつに任せておる。だから貴様は別に必要ない」
「うっ…でも、私はここにいたいんです元就様ぁぁあなんでも言うこと聞きますからぁぁあ」

がしっと腕を捕まれて喚かれる。煩い、こやつと生活などしたら静かな空間がなくなる…。しかし承諾しない限り離さない、という雰囲気のななしのに負けて一週間だけという条件を付けて住まわせることにしたのだった。





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前作の前のお話

(2012.03.25)


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