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□自虐行為
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私には双子の兄がいる。性別は違うのに容姿がそっくりの兄が。容姿がそっくりだからといって私は兄みたいに冷徹な人間じゃない。平凡でどこにでもいるような女子高生だと思う。しかし兄は私が普通であることを望まない。我の妹なのだ、我らしくせぬか。と言って髪型、口調、服…何から何まで同じにされた。私としてはすごく嫌だ。普通でありたいのに、わざわざ人から嫌われるようなことをして一体何が楽しいというのだろうか。

「はぁ…」
「おい」

びくり、と肩が跳ねる。この声は兄だ。ギギギギ、とゆっくり振り返ればやはり兄が私を見下ろすように立っていた。

「貴様、我の言ったことが守れぬと申すか」
「いや、そうじゃない…そうではないが家の中でもこうせねばならんのか?」

兄の喋り方は難しくてキライだ。お堅い感じがもろに出ている。できれば家の中でくらいお堅い言葉遣いなんてしたくない。だがその望みはあっさりと打ち砕かれて表情を一切変えず淡々と話し出す。

「当たり前ぞ。前も言ったであろう、いつ何時も我らしくしていろ、と。貴様の脳みそは記憶することができんのか」
「…申し訳ない」
「我の顔で謝るでないわたわけ」

一体どうしたいと言うんだ兄は。本当ならここで言い返さないといけないんだろうけど私は素直に謝ることしかできない。兄のように人を黙らせるくらい罵倒することもできなければ、何か言われた時に素早く言い返すこともできやしない。私に兄と同じことをしろと言われても、できないものはできないのだ。でも逆らって普通でいることの方ができるわけがない。そんなことをしたら兄に睨み殺されるんじゃないか、と思う。いつも長曾我部に向ける冷たい眼差しを思い出してひやり、と肝が冷えるのがわかった。

「しかし性別も違うのに何故そう兄様のようにしろと申すのだ」
「…知りたいか?」

チラリと私を横目で見る兄。むしろ教えてくれるのだろうか、この兄が。流れのままに私は首を縦にゆっくりと動かす。何故か緊張して喉かカラカラだ。ごくり、と唾を飲み込んで兄を見つめる。すると兄が一瞬にやり、と笑った気がした。兄が笑ったことで思考回路が埋めつくされている間に、急に兄が私を押し倒す。訳がわからずぽかん、と兄を見つめていると後頭部をがしりと捕まれて突然口づけをされた。
思考がついていかないうえ、酸素が足りなくなって頭がぼんやりとする。いまいちまだ状況が飲み込めない。口づけは深いものへと変わっていき私の酸素を奪う。流石に苦しくなって引きはがそうと肩を押すがびくともしない。細いくせして男だ。力で勝てる気がしなかった。意識が朦朧としてきたところでようやく口を離されぜーぜーと息をする。死ぬかと思った。

「っ…いきなり、何をする…!」
「だから教えてやったのだ。貴様が聞いたのだろう?我らしくいる理由とは何ぞ、と」
「それと、これとは…関係ないであろう…!」
「大有りだ。だからこういうことだと言っているのだ」
「なっ…」

また兄がにやり、と笑う。そして私の頬を撫でながら話し出す。

「双子で、性別も違うというのに顔がここまで似るのは珍しい。二卵性のはずがまるで顔だけ一卵性だ。それに我の顔は端正だと評判らしいではないか」
「…」
「貴様は女、我は男。顔は一緒だ。だから貴様が我と同じようになれば我は自分をじっくり眺めることができる」
「何、言って…」

いまだに心臓がバクバクと煩い。先程の口づけもあるがきっと兄を恐れているのだ。そして兄が最後の言葉を言う。ギラリとした目に不気味な笑みを貼り付けて。

「自分とヤれるなど、ないだろう?」

そう言って兄は私の首筋に顔を埋めた。





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ナルシストで気持ち悪い毛利さん

(2012.03.30)


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