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□志望する理由は何ですか?
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学校の屋上。普段ならばたくさんの生徒がいて賑わっているが、今は夜。辺りはしん、としている。ド田舎、というほど人気がないわけじゃなくて、かといって都会とは程遠い位置にある私の通う高校。地元から出るのを拒み、ほとんど同じ顔触れで中学の時となんら変わりのない高校生活を送っていた。田舎とはいえ別になに不自由することなく過ごしてきた。でも、私の頭にはいつも一つの言葉だけがどん、と中心にあった。

(…死にたい)

何故かは自分でもよくわからない。ただいつもふと考えるのが死んでみたい、ということだけだった。別にいじめられているわけでもなく友達だっている。親との関係が悪いわけじゃない。むしろ仲が良すぎて困るくらいだ。自分が極度に嫌いということもなくただの興味本位なのだ。死んだらどうなるのか。死んでしまったらそのあとどうなるかなんてわかるわけもないのに、死というものが気になって仕方がなかった。それを幼なじみに話せば幼なじみは、人を殺してみればわかるんじゃない、とだけ言った。
確かにそれでもいいかもしれない。だが関係のない人を巻き込んでまで死を知りたい訳じゃない。たから結局行き着く先は自殺以外選択肢は無いことになる。それで今日もこうやって死ぬ方法を変えてここに来たというわけだ。

「…この高さで頭から落ちれば確実に死ねるかな。下コンクリだし」

よし、と転落防止の高い網フェンスをよじ登る。がしゃがしゃとフェンスが軋む。あと少しでフェンスのてっぺんだって時にドアが荒々しく開いた。登るのを一旦やめて振り向けば幼なじみが息を切らしてこちらを睨んでいた。

「…何してんのごんべえ」
「今日は飛び降りてみようかと」
「馬鹿、降りてきなさい」

そういってこちらに向かってくる佐助。仕方ないのでフェンスから手を離して屋上の床へと落ちてみる。たった2mくらいの高さから落ちたところで死ねないのだけど。ガツンと体に衝撃が走る。低くても流石にたたき付けられたら痛いもんだ。

「ホント、あんた馬鹿だよね。なんでそこまでして死を追求してんのかわかんない」
「私もよくわかんない」
「…死んだらもう生き返ることなんかできないんだよ。漫画の中の世界じゃないんだここは」
「知ってる。でも死にたくて仕方ないの。どうしてだろうね?」

私を睨みながら見下ろす佐助に笑いかける。しかし佐助の表情は変わらず険しい。いつもそうだ。私が死のうとすれば佐助が絶対に駆け付ける。もしかしたら幼なじみはストーカーだったんだろうか、と疑うくらいに。手首切ってお湯につけてた時も、睡眠薬飲んだ時も、首を吊ろうとした時も。全部佐助は駆け付けた。どれだけ来れないように鍵をかけようと物を置こうと入ってくる。何故わかるのか、入ってこれるのか、と前尋ねたことがあった。すると佐助は、ごんべえが死なないように見張ってんの。と言われて少し引いた覚えがある。

「今日も来ちゃったんだね」
「当たり前でしょ」
「監視カメラでもつけてるの?盗聴器とか…」
「そこらへんは秘密。とりあえず家に帰るよ。ごんべえの両親、心配してんだから」

そう言って手をひかれ立ち上がる。ちらりと時計を見ればいつの間にか12時を過ぎてしまっていた。最近私がこんなせいでお母さんやお父さんはいつもより優しげだ。別に構ってほしいわけじゃないんだけどなあ。佐助に手をひかれながら帰り道を歩いていく。次はどういう風に死んでみようか。





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もしかしたら続くかも

(2012.03.31)


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