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□エイプリルフール
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私、実はごんべえのことが好きだったんだ。付き合ってはくれないだろうか。
ぶほっと飲んでいたミルクティーを噴き出す。これはかすがから届いたメールの内容だ。いきなり、なんだというんだ。口を拭きながら携帯の画面を睨みつける。おいおい、私は女だぞ。送る相手間違えてんじゃないのかこの子。上杉じゃないぞ。若干パニックを起こしながら返信する。

『悪いけど私、そういう趣味はなくてだな…上杉先生と間違えてないか?』

と書き込んで送信ボタンを押す。それから噴き出してしまったミルクティーを拭いていると携帯がまた震える。返信が来たのだろうか。ばっと携帯を掴み取り開くとそこに書いてあったのは

『お前な…今日はエイプリルフールだ。とりあえず引っ掛けて悪かったな。引っ掛かるとは思っていなかった』

とあってガクッと肩を落とす。かすが、そういうことする子だったっけ…。そういえば今日は4月1日だ、すっかり忘れていた。しかし私だけ引っ掛かるのはなんだか無性に腹が立った。誰か引っ掛けてやらなきゃ気が済まない。メールの新規作成を押して一人一人同じ文章を送り付けてやった。
しばらくして一番最初に返って来たのは猿飛だった。

『あのね、ごんべえちゃんが送るとマジっぽいよ。嘘はやめようね』

そのまま引っ掛かればよかったものを。舌打ちをして

『騙されればよかったのに』

と返信しておいた。次に来たのは鶴姫と市。かすがからも届いていたらしく返信は二人とも、騙されないよ、と返ってきた。なんだかつまんない。二人にはちぇー、と送っておいた。それからは次々に返信がきた。返信内容は普通に騙されてなかった。真田は変な想像でもしたのか。

『気持ち悪いわたわけ』
『アンタも引っ掛けようとすんだな』
『はれ ん、ち』
『このサイトに登録すればなんと月100万稼げちゃう!………』
『気持ち悪い。斬滅』

一人悪質な返信が来たけどエイプリルフールだからだろうか。騙された奴がいたらどうするんだ。そういえば一番最初に嘘つけ、と返してきそうな奴から返信がまだきていない。寝てるのか?アイツにしては早い就寝だ。時計を見れば短い針は3を指そうとしていた。そろそろ寝るか、と電気を消そうとしたら携帯が震えていた。ようやく来たか、と開けばそこには

『今すぐ出てこい』

コイツ頭大丈夫か。私の家じゃなきゃすごく迷惑すぎる時間帯だぞ。渋々玄関を開けると伊達がむっとした顔で立っていた。とりあえず近所迷惑になってしまうので家に入れる。どっかりと私のベッドに座る伊達に一応茶を出して床に座る。

「アンタなんだよさっきのmail」
「何って、エイプリルフール」
「あのな…アンタが送るとマジみてぇだろうが」
「本気にしたのか?」
「HA!まさか」

やっぱり誰も引っ掛からないか。真田以外は。むぅ、とメールの内容がいけなかったのかと考えていると、伊達が俺は、と口を開く。

「アンタの事好きだぜ」
「嘘つけ馬鹿」
「な?すぐわかるだろ。それと同じなんだよ」
「…てかなんでわざわざ家まで来たの」
「近くにいたからな。ほら」

ポケットから出したのは缶コーヒー。まだ暖かい。コンビニでも行ってたのかこんな時間に。缶コーヒーを伊達に返してはあ、とため息をつく。

「結局騙せず仕舞いか」
「一人も騙せ無かったのか」
「うん。お前は騙せたのか?」
「…これから」

騙せれてない癖にどや顔するんじゃないよ、と内心舌打ちをしていると急に伊達が立ち上がり私の目の前で座る。疑問に眉を寄せて私を見つめてくる伊達を見ているとまた唐突に唇に柔らかい感触。目の前には伊達の顔。自分が何をされているのかわからず固まっていると伊達が顔を離す。その表情の嬉しそうなことといったら。

「これでも、俺がアンタを好きって言っても嘘だと言えるか?」
「…あのな、女たらしだったお前がそんなこと言っても説得力のかけらもない」
「俺は、本気だぜ?」
「…嘘だ」

ニヤリと笑う伊達に少しだけ戸惑った。だが今日はエイプリルフールだから。こいつは嘘を言っているはずだ。それからハァ、とため息をついてつまんねぇ。と呟いた。やはり嘘だったようだ。それから私の肩に顔を置いて耳元でねみぃ、と言う伊達はいつも通りの伊達だった。泊まってくかと問えばおーと間の抜けた返事が返ってきた。さて、布団もないしどうするかな。



(まあ、予想はしてたけどな)

どうせ信用されないだろうと思っていたが、やはりその通りだった。俺としては本気だったのだが、前のこともあり今日がエイプリルフールということもあり。引っ掛かってくれたらよかったのに。

(『ずっと前から伊達のこと見てた。今気付いたんだけど、私、アンタのこと好き。』か)

思いっきり騙された事は言わない。馬鹿にされるだけだ。俺の嘘で隠した本心を気付いてくれよ、と俺の頭をペシペシ叩くななしのに願いをこめて。





(鹿)





私、実はおっさんなんです(迫真

(2012.04.01)


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