short

□臆病者なヒーロー
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(※暴力表現有り・R15)


「アンタら何やってんの」
「っ…あは、なんで来たのさ馬鹿…」

周りにいたやつらが一斉に慌てだす。顔にも容赦なくつけられた傷。体中に作られた痣。いつも笑顔だけを貼り付けている彼女が、一瞬驚いた表情をして泣きそうな顔でへらりと笑った。




□■□




ごんべえは隣のクラスのごく普通の女の子だった。ただ一つ目立つものがあった。それは生れつきもった髪の毛の色。白くて細いその髪は光で色を変えて綺麗だった。しかし女子は何が気に食わないのかごんべえをいじめはじめた。最初は机に落書き、物を隠したり壊したり。そこからどんどんエスカレートして殴る、蹴るなどの暴行。綺麗な長かった白い髪も今では切られてしまい短くなっている。
それでも周りは見て見ぬ振り。教師ですら何も言おうとなんてしない。俺様も、見て見ぬ振りをしていた一人だった。いじめられているのは知っていた。でも何もしなかった。でもある日、ごんべえと関わることがあった。帰ろうとして、階段を降りようとしていると屋上から出てくる派手な女子。女子は俺様を見ると佐助くんだ、と騒ぎはじめ俺様の側に駆け寄り軽く喋ったあと帰っていった。ただ、気になった。どうなっているのかが。好奇心で屋上の扉を開けるとそこには痣だらけで痛々しい姿のごんべえが胡坐をかいて座っていた。俺様は驚きを隠せなかった。いじめられているのに、余裕があるなんて。すると彼女が振り返る。顔は殴られたあとや、切れたのだろう、血が出ていた。そして彼女が俺様を見て笑う。

「あんたも殴りに来たの?」

それがごんべえと初めて喋った日だった。にこりと貼り付けた笑顔の裏が全く見えない。それに彼女が発した言葉がおかしい。恐る恐る俺様は口を開く。

「アンタ…怖くないの?」
「別にー。もう慣れたよ。それよりあんたは何しに来たの?あいつらと一緒じゃないの?」
「俺様は意味のないことはしないよ。別にアンタが何かしたって訳じゃないしねー」
「変なの。まーいいや。あんた名前なんてーの?」
「猿飛佐助」
「猿飛くん。覚えた、変な人だね。」
「アンタのがよっぽどおかしいと思うけど」

そう言えば笑い出してそうだねー、と言って立ち上がる。制服はくたびれていて立つ時にいたた、と声を上げる。確かに痛そうだ。痣は見ていてこっちが痛くなる。そしてごんべえは俺様の隣をすり抜けると扉の前で立ち止まってこちらを見る。

「じゃーね、猿飛くん。気が向いたらまた会おうじゃないか」
「気が向いたらね。ばいばい」

ふざけた様に話したあとまた笑って手を振り階段を降りていく。誰もいなくなった屋上は静かでグラウンドの運動部が片付けをしているのが見えた。いつの間にか日は沈もうとしていて俺様も彼女のあとを追うように帰ることにした。
次の日、その次の日も彼女はいじめられていた。俺様はいじめてる奴らが帰った後に彼女の所に行く。すると彼女はやはり笑っていた。あいつらの文句も言わずに、俺様にも何も言わずに。

しかしある日また彼女の元に行けばいつもとは違う彼女がいた。いつもなら殴られているだけだというのに今日は違った。異臭が鼻につき眉間にシワを寄せて鼻を押さえる。ごんべえに目を向ければまたこいつは笑っていた。

「あは、くっさー。汚いよねぇマジ勘弁してほしいってのー」
「アンタ…されるがままだった訳?抵抗しないの?」
「したって無駄っしょ。誰かが助けてくれる訳でもないんだし」

顔に笑顔を貼り付けたまま肩をすくめて服を正している。その言葉を聞いてギクリとした。俺様はいつも終わった後に行く。関わりたくない。自分も一人になるのは嫌だ、と考えてしまう。助けることもしないでただ彼女がいじめられた後に話すだけ。自分は何がしたいんだろうか。関わりたくないくせに、いつも来て。

「…急に黙らないでよねー。別に助けてほしいなんて言ってないよ」
「…なんで言わないのさ」
「だって、関わりたくないでしょ?猿飛くんは一人でいるような人じゃないし。てゆーかここにいること事態私的には不思議だしさー」

けらけらと笑う彼女を見て自分は情けないやつだと実感した。ただ見てるだけの臆病者。彼女は辱めを受けても、泣かなかった。助けてなんて言わなかった。いつも通り笑って俺様を見ている。助けてあげなければいけないのに。彼女が頼れるのは俺様だけなのかもしれないのに。すると彼女は黙り込んで俯いた俺様を不思議に思ったのか口を開く。

「そう気にしなさんな。あんたさんは関係ないべや」
「…何その意味わかんない喋り方」
「やーっと喋ってくれた。とにかく私の事はどうでもいいからさ。さ、帰りなよ猿飛くん」

笑いながらそう言ってべたつくなー気持ち悪う…なんて呑気に肌を触っている。その様子を見ていると、ほら、早く帰りなよ、と催促されて後ろ髪を引かれる思いで屋上を出た。彼女の言葉を思い出しながら俺様はようやく決心した。




□■□




そして冒頭へと戻るという訳だ。扉を思い切り開けるといじめているやつらがいた。ごんべえに近寄ればそいつらはそそくさと道を開けた。そしてごんべえを横抱きにして帰ろうとするとようやく混乱している頭が状況についてこれたようで一人が声を上げる。それにつられて次々と喚きだす。

「なんで…なんでそんな奴なんか助けるの!?」
「そんなのほっときゃいいじゃん!!きったねーし!!」
「そんな気持ち悪いのに触ったら佐助が汚くなるって!!」
「…ほら、離しなよ。あんたさんは関わらなくていいんだよ」

小さく笑って俺様を見上げているごんべえを今更放ることなんて出来る訳がない。それに俺様はもう決めたんだ。こいつを助けるって。扉前で振り返り女たちを見回す。それからすぅっと空気を吸って吐き捨てるように言い放つ。

「煩いなあ。俺様から見たらアンタらの方が触ったら汚れちゃいそう。きったないなー。見た目も中身もサイアクだね」

へらりと笑って唖然としている女たちを置いて屋上を出る。とりあえず俺様の家に行って手当でもするかな、と考えていると彼女が口を開いた。

「なあんで来ちゃったの。あんたさん、これで今のままじゃいられないよ。面倒事に巻き込まれて、嫌でしょーよ」
「…」
「私なんかほっといてよかったんすよー?」
「…俺様はいつも逃げてばっかだからね。たまには、いーんじゃないかなってね」
「…なにそれ」
「それにごんべえちゃん綺麗だし。傷物にするのはどうかと思うよ。嫉妬って怖いねえ。ま、これからは俺様が守ってあげるよ、お姫様ってねー」

そう笑って言ってみせると、また彼女はなにそれ、と言って笑っていた。それからくしゃりと顔を崩して泣いていた。泣きながら震えた声でありがとう、と言って彼女はようやく作り物の貼り付けた笑顔じゃなく、本当の笑顔を見せてくれた。





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(2012.04.07)


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