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□どう考えても答えは一つ
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血族との結婚は禁止。これは法律で決められていることである。どれだけ好きだろうとできないものはできない。まあ従兄弟からはできるのだが、障害を持った子が生まれやすいということがわかっている。しかし私の家は違った。名家である毛利家は代々頭のいい、優れた家系で有名だった。何故代々優秀であるのか。遺伝なのは確実なのだが異常なまでに全員頭がいい。
かく言う私もトップ3など当たり前にとっていた。格別勉強もしていない。ただ授業を聞いてノートをとって。ただその作業しかしていないのにテストではいつも高得点だった。最初のうちは疑問に思わなかったのだがつい最近になって疑問に感じた。何故、こうも頭がいいと囃し立てられるのか。努力している人だっているというのに。
そしてある日、たまたま家の中を歩き回っていたのだが、兄の部屋から声がしたのがふと気になった。静かに気配を消して部屋から漏れる声を聞いていると驚くべき事実が聞こえてきた。

「…という訳でございます元就様」
「我はごんべえに孕ませよ、ということか。よかろう」

一瞬自分の耳を疑った。孕ませる?子を?何を言っているんだ兄は。兄弟間で出来た子供は同じ血を強く引くことになる。つまり重い障害を持って生まれることがあるというのに何を言っているんだ。ぐるぐると兄の言葉が頭の中で回る。すると話していた人が出ていき、兄が私の目の前で仁王立ちしている。どうやら身をひそめたのは失敗したようだ。

「…何をしておる」
「兄、様。先ほどの話はどういう意味ですか…?」

恐る恐る表情を伺いながら尋ねてみる。変な汗がダラダラと垂れて、喉がカラカラに渇く。ゴクリと唾を飲み込み兄をじっと見つめていると、何を言っているんだ、と言いたげな表情をして口を開く。

「聞いておったのか。ならば話は早い。貴様が我の子を孕むというだけのことだ」
「し、かし、それでは生まれてくる子に障害が…。それに血族間では、」
「なんだ、貴様知らぬのか」

呆れたような目で私を見下す兄。嫌な予感がする。これから兄が言おうとしている言葉がなんとなく理解出来てしまう。頭はその言葉を聞きたくない、と拒む。だがその願いは虚しく兄は口元を歪ませる。

「我が毛利家は代々血族間での交わりによって子供を作っていた。だがしかし、貴様の言った通り、障害を持つ子が生まれる時がある。その時は、」
「…や、めて」
「失敗作は殺すまでよ」
「やめて!」

耳を塞いでその場にしゃがみ込む。嘘だ、嘘だ。認めたくない事実を告げられ、脳はそれを否定する。認めたくなんてない。自分らの都合で生まれてきた子を殺すなんて。ドク、ドクと脈打つ心臓がやけに煩い。私は、毛利家はこんなことをしてきたからこんなにも優秀な人材ばかりできるわけだ。兄がしゃがみ込む私と同じ目線になる。そしてやんわりと手首を掴み、引きはがす。

「…ごんべえの申したいことがわからぬ我ではない」
「…」
「だが、今更毛利家に生まれてきたことを憎んだところで何になるというのだ」
「…でも…」
「この家に生まれた運の尽きよ。潔く受け入れるしかあるまい」
「そんな…」

この家の規則に従うしかないのだろうか。なんとかして止められないのだろうか。しかし目の前にいる兄の目を見ていたら何も言えなくなってしまった。昔からこの人は人を使うのが上手かった。それはこういうことなんだろうな、と実感した。そして形のいい唇が弧を描き言葉を言い放った。それは重く深くのしかかり、また頭の中がごちゃごちゃになってしまった。その表情だけ見て満足そうに笑いどこかへ行ってしまった。一人残された私は一人、先ほどの言葉の意味を考え直していた。





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(2012.04.19)


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