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□つながりの春
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春は出会いや別れの季節だ。別れがあってから出会いがある。学生の私たちにはぴったりの行事がある。それは卒業式と入学式だ。2月も下旬に入り、もうすぐ三年生はこの学校ともおさらばというわけだ。
私は焦っていた。もうすぐ三年生は卒業する。三年生には私の好きな人がいた。高校に入りたてだった頃、右も左もわからずおろおろしていたところを懇切丁寧に教えてくださった先輩。先輩に一目惚れしたから先輩のいる部活に入ったんだっけ。でもその先輩とももう会えなくなるのだ。

(卒業式なんて、来なければいいのに)

刻一刻と近付く卒業式。友達に話せば、じゃあ告白でもしちゃえばいいじゃん、と笑いながら言う。他人事だと思って…私にとっては一大事だというのに。でも、もう会えないのなら、この気持ちを伝えたっていいんじゃないだろうか。ダメだったとしても会わなくなることなんだし。悶々と告白するかと考えながら一日、また一日と過ぎていく。
卒業式まであと3日というギリギリになってようやく告白しよう、と決心した。ちょうど今日は三年生が練習のために学校に来ている。卒業式当日は時間がないかもしれない。今のうちに告白してそれで終わりにしよう。そう考えた私は学校内をくまなく探す。三成先輩、どこにいるだろう。きょろきょろと探していたらいつの間にか人気のない場所に来てしまった。さすがにこんなところにいないでしょ、と踵を返そうとすると後ろから声がした。

(こんなところに、いったい誰だろう)

ここはそうそう人が来るような場所じゃないのだ。来るとすれば用務員の人かもしくは告白…。そこではっとした。もしかして私とおんなじ考えの人がここで誰かに告白しているんだ。なら私はここにいちゃだめなんじゃないか。帰らなくちゃと思う私と好奇心でここに残ろうとする私がいて動けなくなる。するとまた声が聞こえた。

「…私、ずっと三成くんのこと好きだったの。もう卒業しちゃうし…でも、私この気持ちだけでも伝えておきたくて…」
「…」

思考回路がフリーズする。ミツナリ、くん。それは私が好きな先輩の名前じゃないか。もしかしたら同名の人かもしれないのだけどそれでも胸騒ぎが治まらなかった。恐る恐る振り返る。するとそこには誰もが振り返るような可愛らしいいまどきな女子生徒と、銀髪の見知った顔が見えた。間違いない、あれは私の知っている、三成先輩だった。
あんな可愛い女の子に告白されて断る人がどこにいるのだろうか。性格も見た目からしてよさそうだ。三成先輩はツンツンしているけどかっこいいし、何気に優しいとこがあるからモテモテという訳で。私が、こんな可愛い人に勝てるわけがない。頭の中で色んな考えがぐちゃぐちゃに混ざる。

「   」

三成先輩が何かを言ったようだが今の私の聴覚は機能していなかった。すると女子生徒がくしゃりと顔を歪めて泣き出す。そして三成先輩にもたれかかる。ああ、いい返事をもらったんだろうな。そう頭に言い聞かせると目の前が霞んできた。これ以上ここにいるのも辛いだけだ。こっそりと音を立てないようにその場を後にした。




□■□




ついに今日は卒業式だ。あの後ぐすぐすと泣いていた。友達には大層心配をかけてしまった。でももう大丈夫、今日でもう三成先輩ともおさらばだ。彼女さんがいるんだから告白なんてできるわけもなくて。笑顔でさようならって言ってやるんだ。
式も終わり、三年生は教室で最後の別れを惜しむように話しているのが見えた。ちらりと三成先輩の教室を覗きこめば女子に囲まれている三成先輩が見えた。するとこちらを振り返ってカチリと目があってしまった。しかし私はそそくさとその場を去った。これでよかったんだ。これでもう三成先輩とは目を合わすこともなければ会うことだってないんだから。笑顔でさようなら、できなかったな。やっぱり話し掛けられなかったな。なんて考えているとまた視界が霞んできた。

「っ…く、もう…最悪っ…ふ…っ」
「…何を泣いている」

聞きなれた声。驚きを隠せずにバッと振り返ればそこにいたのは三成先輩だった。息を少し荒げて、胸には花を挿している。

「何故泣いている。答えろ」
「…三成先輩が、卒業しちゃうから…っですかね…」
「…」
「三成せんぱ…っ、ご卒業おめでと、ございます…っ」
「…あぁ」
「もうお別れです、ね…っ。今まで、ありがとう、ございました」
「…」

三成先輩が私をじっと見つめている。言わなくちゃ。笑顔で、さようならって。

「っ…三成先輩に会えて、よかったです…っ」
「…貴様の言いたいことはそれだけか?」
「へ…?」
「ならば、黙って聞け」

ふわりと三成先輩の匂いがする。一瞬思考が固まる。今、私が何をされているのかわからない。耳元には息遣いが聞こえていて。三成先輩に抱きしめられているんだと気付くのにはかなりの時間を要した。

「ごんべえ、私は貴様が好きだ。ずっと、見てきた。ごんべえのことを。もう会えないなど、私が許さない。私の側にいろ、ごんべえ」
「えっ…?三成先輩が、私、を?でも、彼女さん、が」

先輩が何を言ってるのか理解できなくて思考回路がうまく回らない。途切れ途切れに言葉を発すれば、耳元に三成先輩のため息がかかってくすぐったい。

「…私に女などいない。貴様だったのか、あの時いたのは」
「き、気付いてたんですか…」
「当たり前だ。あの女は気付いていなかったようだがな」

ほっと胸をなでおろす。しかしゼロ距離の三成先輩に動悸は激しくなる一方で。顔に熱が集まってるのがわかる。表情が見えていないのが唯一の救いだ。

「…それで、貴様の答えはどうなんだ」
「……私も…三成先輩のこと好き…っ!」

言い終えると同時に私の唇に柔らかい感触がした。目の前には三成先輩の顔。されるがままに目をぎゅっと閉じる。ゆっくりと離れていく先輩をじっと見つめているとふっと笑って愛している、と言ってまたキスをされた。





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五千打リクエストありがとうございました!
切甘…になりましたかね…
これからもよろしくお願い致します!

(2012.04.15)


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