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□愛してる、君の全てを
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また、だ。郵便受けを開けてため息をつく。ここ最近郵便受けに入っている私宛ての手紙。そこには私への愛の言葉が書き綴られていて本当に鳥肌が止まらない。相手のことなんて何一つわからない。しかし綺麗な字と所々混じっている筆記体の英語からして、中々の教育を受けている人なんじゃないか、と仮定した。毎朝ご苦労なことだな、と私はその手紙をごみ箱に捨てて学校へと向かった。




□■□




「Hey、ななしの。どうしたんだよ、顔色悪いぜ?」
「伊達くんか…。いや、別になにもないよ、大丈夫」

私の顔を覗き込んで顔をしかめる伊達くん。同じクラスの子であまり喋ったりする方ではないのだけど、隣の席が幸村くんということでよく近くに来ている。今日もきっと幸村くんを探してきたのだがトイレに行った為いなかったから多分待つついでに私に話しかけたのだと思う。彼はあの伊達組の息子であり、成績優秀、スポーツ万能、おまけにイケメンでスタイルがいいときた。これは神様の贔屓だと私は思う。いいなあ…私にも少し分けてほしい。

「なんか悩んでるみたいに見えるけどな…。俺でよかったら相談に乗るぜ?」
「いやあ、伊達くんに迷惑かかっちゃうしいいよ」
「否定しないってことは悩み事があんだろ。言った方が少しは気が楽になるぜ」
「で、でも…」
「遠慮すんなって。ほら、言ってみろよ」

幸村くんの席に座って膝に頬杖をつく伊達が、じっと私の目を捕らえて離さない。ちょっと言っていいのか迷ったのだが、伊達くんの目がそれを許さない雰囲気を放っていたので、渋々私は最近のことを話す。話し終えると伊達くんは椅子にどっかり座るように体勢を変えて口を開いた。

「まぁソイツがアンタを好きってのは別にいいけどよ、やりすぎだな」
「どこの誰かもわかんないし…気持ち悪くて」
「じゃあソイツが誰かわかってたらいいのか?」
「うーん、あんまり変わらないかな…。毎日私の行動について手紙に書き綴られてるの思い出すと鳥肌立つし…」

Huh…と相槌を打つ伊達くんはどこか上の空だった気がする。やはりこんな話するべきじゃなかったんだ。やっちゃったな…と一人肩を落として落ち込んでいると私の頭にぽすっと手が乗せられる。ふっと上を見れば微笑んでいる伊達くんがいるではないか。少しドキッとした。

「俺が、犯人探してやるよ。んでアンタの前に連れてってやる」
「えええ!?そんな悪いし…!それに連れてこられても…!」
「謝らせないとダメだろ?あと、どうせなら真正面から言えってな」
「そ、そういう問題じゃあ…」

気にすんなって。と笑う伊達くんに押されて犯人探しをしてもらうことになった。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。いつかこの借りをちゃんと返さないと。とりあえず伊達くんが協力してくれると聞いて幾分か元気が出てきた私は今だけでもストーカーのことを忘れようと明るく振る舞った。




□■□




授業も終わり帰り道。幸村くんたちと別れて一人で帰る道だ。周りには人の気配なんてなくて寂れてる道だった。本当は一人で帰るのも少し怖いのだけど、これ以上我が儘を言うなんてことできない。だからこれくらいは我慢しなくちゃ。喝を入れる為に頬を二、三回ぺちぺちと強めに叩く。自分の家に着いて中に入る。
今日も疲れたなあ。明日もあの手紙来るのかな、なんてことを考えながらベッドに寝転がる。するとガチャリ、と鍵を開ける音がした。お母さんかな?帰ってくるの早いなあ。ベッドから身を起こして自分の部屋から出る。そしてリビングにいるであろう母の元に行く。

「お母さん帰り早いねーおかえ…り…?」
「よぉ、ななしの。邪魔してるぜ」
「伊達、くん…?なんで、いるの」
「開けて入ってきた。ほら、鍵ならあるぜ」

そう言って見せ付けてくるのは確かに私の家の鍵だった。でもなぜ伊達くんが私の家の鍵を持っているのだろうか。そこではっとした。手紙は綺麗な文字に所々混じっていた英語…中々の教育を受けている身近な人…まさか、もしかして。信じたくないけど、でもこの人、私の家の鍵を持っているんだから。危険だ。脳がけたたましく警報を鳴らしている。早くこの人から離れないと。だがその反応が遅すぎていつの間にか距離を詰められていた。まずい、これじゃあ逃げられない…!

「なあ、なんで逃げるんだよ。俺はアンタが好きなんだ。愛してる。それだけなのに、なんで拒絶すんだよ」
「やめて…!近寄らないでよ!」
「なぁ…なんでそんなに俺のこと嫌うんだよ?俺はアンタがいないとダメになっちまいそうだってのによ…!」
「はな、して…!」

手首を掴まれて力を入れられる。すごく痛い。伊達くんが怒る理由がわからない。私何も悪いことしてないじゃないか。正常な100人に聞いたら100人とも君が悪いと答えるぞ。ぎりり、と力を強められて腕が折れるんじゃないか、というレベルになってきた。さすがにやばい…!必死に抵抗するが離してくれない。恐怖から震えが止まらない。

「アンタが、ごんべえが言ったじゃねぇか…!真正面から言えばいいって!謝ればいいのか?なあ!どうしたらアンタを俺のものにできんだよ!!」
「私一言もそんなこと言ってない…!離して…!!」

その瞬間伊達くんの力がふっと抜ける。腰が抜けたのだろう、私の体は重力に従ってへなへなと下へ落ちていった。なんなんだ彼は。こんな人だったのか。彼だったのか。じっと床を見つめながら息を整えようとする。
すると伊達くんが私の顔を覗き込んできてひっ、と短く息をして後退りする。しまった…後ろはもう窓だ。逃げ場を失った私の頬に手を伸ばして無理矢理キスをしてくる。怖いこわいコワイ。頭の中は恐怖で埋め尽くされていた。口を離して首筋に舌を這わせる。歯がガチガチと震えて音を立てる。チクリとした痛みのあとにリップ音がした。そしてクツクツと喉の奥で満足げに、でも少し悲しげに笑った。

「アンタの体、俺無しじゃ生きられなくしてやるよ」





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五千打企画参加ありがとうございました!
切甘…になっていない…。甘く、ない…切なく、ない…。
狂愛も意味を差し違えていないか心配でございます…。
こんな駄文で申し訳ありませんでした!
書き直しはいつでも受け付けておりますm(__)m


(2012.05.05)


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