DRRR!

□キャットフード
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-I need 愛情


「もうシズちゃんなんか知らないっ!!!」

思い切り扉を閉めたのは紛れもなく俺自身の手だったんだけど…


「はぁ…」

池袋の淀んだ空気に紛れ、小さなため息はあっという間に霧散した。

「居心地悪っ。」

俺はもたれかかっていた路地のコンクリート壁を睨み付けた。

固いし、冷たいし、背中痛い。

文句ばかりが次々と脳内に浮かんでは消えていく。

壁だけじゃない。
そこら中なんか煙いし、さっきからクラクションだの客引きだの店内BGMだの喧しいし。

普段の俺ならこんな中でも「人ラブっ!!」とか言ってジャケプレやっちゃってる所だけど、今はその人間の気配すら腹立たしい。

ならとっとと帰宅すればいい話なのだがそういう訳にはいかない。
そう、それは絶対ダメだ。

なんといっても…
-今俺は家出中なのだから。

【キャットフード】


きっかけは実に些細な事だった。話は数時間前に遡る。


『ただいま〜』

『おかえりシズちゃ…って何ニヤニヤしてんの?』

遅めの帰宅を果たした同居人を走って出迎えると、普段の仏頂面からは想像出来ないくらいにこやかな表情を浮かべていた。
恐らくこれが取り立ての際に発動したら相手は自らの死を覚悟してしまいそうな。という位に普段ならあり得ない表情。

『に、ニヤニヤなんかしてねぇよっ//』

あたふた誤魔化すがやはり顔は綻んだままだ。

『なに?何か良いことあったの?』

俺が首を傾げ尋ねると、しばらく視線をさ迷わせ、

『い、いや…な、、じ、実は幽がなっ!!』

ピクリ

途端に表情が凍りついたのを自覚した。

『今日久々にあいつに会ったんだけどよーなんかまた新作映画の主演決まったらしくてさ!それで…どうした?臨也?』

まるで表情が動かなくなった俺を不審に思ったのかシズちゃんがこちらを覗き込んできた。

あー多分あの時の俺の表情も仕事相手の前でやったら死を覚悟させちゃいそうだなー

とか暢気な発想はその時は浮かべる余裕すらなくて。

『…も…だ』

『あ??』

気づけば勝手に口が動いてた。

『幽幽幽幽っ!!シズちゃんいっつも嬉しい時のネタはそればっかり!!何!?どんだけ弟愛しちゃってる訳!?兄弟愛なんて波江一人で十分なんだよこのブラコンっっ!!!!』

『はぁ!?』

額に青筋が立ってる。確実に危険信号だが俺の口は止まらない。

『大体何さっ!!てっきり仕事が推してて大変なのかと思ってたらその愛しの弟くんと仲良くお話してたんだ!へぇ〜ふぅーんそれは大層良いこと尽くしだったでしょーねっ!!』

もう冷静に考える余地なんてない。呆然とするシズちゃんを横目に俺は素早くファーコートをつかみ取り、

『もうシズちゃんなんか知らないっ!!』

そう吐き捨てて飛び出してきて、現在に至るという訳だ。

「思い出すだけでイラつくっ」

腹いせにナイフを壁に突き立てる。ダメだ結構頑丈。

「シズちゃんみたい…」

つい口にでた名前に更に深くため息を吐いた。

「…あーあ」

そのままズルズルと座り込む。タバコの吸殻発見。汚いけどなんかもうどうでもいい。

「…シズちゃんのバカ…」

ポツリと呟かれた声は物凄く情けなくて、自分で聞いててもちょっと悲惨。

分かってる。ほんとは悪いのは俺。
シズちゃんの弟思いは今から始まった訳じゃない。そりゃそうだ。異常なまでの力に悩まされていた頃支えてくれた大事な家族なんだから。
それを勝手に嫉妬して、勝手にキレて。

でも…それでも…

「記念日くらい俺らの事だけ話してくれてもいーじゃん。」

膝に顔を埋め呟く。
きっとシズちゃんは覚えてなんかないんだろーな…今日が付き合い出して1年の記念日だなんて。
ウキウキして帰りを待ってた自分がバカみたいだ。

ポツリ

頬に冷たい感触。

顔を上げれば雨が降り始めていた。

もちろん傘なんか持ってない。
みるみるびしょ濡れになっていく。

「…寒いよ…シズちゃん…」

見上げた頬から流れ落ちた生暖かい塩水は少し変わった雨だろう。
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