Pandora Hearts

□家出少年と迷子少女
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-忘れたいことがあるんだ

【家出少年と迷子少女】

穏やかな日差し。
丸い視界の中にいつも通りの朝が現れた。

「ふぁー...」

大きくノビをする。

「...?」

間もなく訪れる違和感。

目にした時計の時刻は13時。

-おかしいな。

いつもならとっくにエリオットが叩き起こしにきてる時間なのに。

ドアに目を向ける。
一向に動く気配はない。

「...?出掛けたのかな?」

たまにあるんだよな..
気の向くままに
エリオットはたまにフラりと外出することがある。
森で剣の鍛錬だったり
パンドラでミスターザークシーズの様子を伺いに行ったり
あぁ、こっそりオズ君たちに会いにいってることもあったな。

屋敷の使用人はよく「エリオット様が消えた!」なんて大騒ぎになる。

まるで『家出』だ。

「ったく。しょうがないなぁ。」

そう言いながらも、僕はそんなエリオットの自由な所が好きだった。
まるで無限の可能性を信じさせてくれる道標みたいだ。

「さて、主人(マスター)を迎えに行かなきゃね。」

少し顔を綻ばせドアを開ける。

「!お前、どこに行く!?」

罵声に顔を上げれば、そこには見慣れた制服。
...パン
ドラの役人がなぜここに?

「?なにって..迎えにいくんですよ?」

首をかしげ言えば、役人は眉を潜め無理矢理腕を引っ張ってきた。

「何を言っている!?出せる訳ないだろ!?」

怒鳴りながらグイグイと僕を部屋に押し戻そうとする。

「や、やめてくださいよ!!」

様子がまるで違う役人に戸惑いながら必死にあらがう。

「ダメだ!大体迎えに行くって誰をだ!?」

...ダレヲ?
決まッてるジャなイか..

「エリオットですよ。」

そう言った瞬間役人がピタリと動きを止める。

「...え?」

その目には先程までの覇気は消え失せ、代わりに怯えが浮かんでいた。

「...離してください。」

振り払えばあっさりと役人の腕はほどけた。

はやく
早く
速く
ハヤク

行カナキャ

僕は玄関から外に飛び出す。

...あ
れ...


ここ、パンドラ?

なんで僕こんな所に?

『ほら、早く。』

「!」

突如響く声。
頭に直接聞こえる...?

『エリオットを迎えに行くんでしょ?』

「..!うん。」

気付けば駆け出していた。
声はもう聞こえなかった。

はぁっ
はっ

息が切れる
足がもつれる
汗がまとわり
ついて気持ち悪い

「どこに行ったんだよ..!」

どのくらい走ったっけ?
気付けば空は暗い赤色。

何故だろう
やっぱり胸を占めるのは
一つの「違和感」

「どこ...?」

自分の言葉に疑問符が浮かぶ。

ホントニ?
ホンとニエリオットは家出しタんだッけ?

『だめ。』

再び響くあの声。

『思い出したら...だめ。』

その声は警告するかのようにひたすら『だめ』を繰り返す。

僕は訳も分からず、ただ漠然と、自分に空いた穴の闇が怖くて。

でも...

『お前はそれでも俺の従者か!?』

「!!!!」

慌てて顔を上げる。
エリオットの姿はない。

「えり...おっ...と?」

見えないけど
見える。

堂々とした
白い少年。

『現実から目を背けるな!』

それは紛れもない、僕を連れ出したその手を差しのべるエリオット。

『だめ!!』

バチンッ

突如伸ばしかけた手が弾ける。

『だめ!!!!思い出したら辛いだけ!!!悲しいだけ!!!』

さっきの声...
エリオットの姿が霞んでく。

『だめだめだめだめやだやだやだやだ』

ノイズ混じりだった声は徐々にクリアになっていく。

よく聞けばそれは僕自
身の声だった。

「...っ」

薄くなっていくエリオットは何も言わずに手を伸ばし続けている。

「ぼく...は」

『やだやだやだやだやだやだやだ』

「僕は...」

『やだやだやだやだやだやだやだやだ』

「僕は!」

『やだやだやだやだ「うるさいっっっ!!!!」』

声を振り払い、駆け出す

「エリオット!!!!」

手を取った瞬間、視界が白に包まれた。
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