Pandora Hearts

□Spice
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-さぁ、嫉妬してみせてよ。

【Spice】

「好きですっ!」

顔面を真っ赤に染め、目の前の女はそう言った。

「...僕もだよ」

優しげな微笑みを張り付け言う。
嬉しそうに顔を綻ばせた彼女を通りすぎ、僕はある一点だけを見つめ続けていた。

あぁやばい。
この女なんて名前だっけ。

そんな事おくびにも出さないで優しく抱き締める。

ちょうどここから見えるはず。
...彼に

「...」

嫌悪感に満ちたその表情。
見せびらかすように抱き寄せながら、僕は女に囁く。

「愛してるよ。」

...帽子屋さん

その名前だけは口に出せないまま。


「ねぇ、ヴィンセント様?昨日は誰といたんですの?」

絡み付く腕。鼻につく甘ったるい香り。
あぁ、うざったい。

「あれは仕事のうちの付き合いだから。」

こんな苦し紛れな言い訳すら、耳元で囁くだけで信じる浅はかで間抜けな奴ら。
バカじゃないの?

「僕には君だけだよ。」

ベタすぎて笑えるセリフ。
確か今日だけで5人の女に同じセリフを吐いた。

「愛してる」

記号みたいに紡いだセリフは、きっと本当に言いたい相手には一生言えないのだろう。


「いい加減にし
たらどうなんデスカ?」

パンドラの廊下。ぼんやりと歩く背中に投げ掛けられた声。
高鳴った鼓動を悟られないように、僕はいつも通りニコリと微笑んで振り返る。

「何のこと?」

「惚けないでくだサイ。毎日女性をとっかえひっかえ。ドブ鼠とは知ってマシタけどここまでクズだとは。」

呆れたように言う帽子屋さん。

「そんなこと帽子屋さんには関係ないじゃない。」

にっこりと微笑む。
内心は荒れまくりだったけど。

さぁ、言ってよ。そしたら僕はこんなことしない。

「君は彼女たちに興味なんてないんでしょう?」

「...」

その通りだよ。
僕が好きなのは

「ギルバート君ダロウ?」

......は?

どうやら真剣にそう思い込んでいるらしい。

違う。
全然違うよ。

ダンッ

とんでもなく湧いた怒り。
気付けば壁に押しあて両手で挟み込んでいた。

「!?!?なっ、何の真似デスカ?!」

珍しく目を見開く帽子屋さん。

「...る」

驚くほどか細い声。
あぁ、あれだけ使ってきた言葉なのに。

「っ...あいしてる!!!」

言葉よりも涙ばかりが溢れてきた。
馬鹿みたいに泣きじゃくる。
あぁ、カッコ悪い。

「僕
が好きなのは...っ君だよ!帽子屋さん!!!」

もう形振りなんてどうでも良かった。

気付いて
気付いて
僕に気付いてよ

「...」

黙りこくる帽子屋さん。
答えは分かってる。
来るべき残酷な言葉に備えてきつく目を閉じた。

「...私もデスヨ。」

「!?!?」

慌てて顔を上げる。
そこにはいつもと違う優しげな笑顔があった。

「...ほん...とに...?」

ウソだ
だって
あり得ない
帽子屋さんは
僕が嫌いで
大嫌いなはずで

「やっと、正直になれマスね。」

伸ばされた腕に抱き寄せられる。

僕はただその腕にしがみついた。


その笑顔に一瞬浮かんだ
歪んだ笑みに気付かないまま。

*
さて。

私の視線の先にあるのは黒い影。
あれで隠れてるつもりなんデスカね。

不安そうにこちらを伺っている。
ドブ鼠を抱き寄せた途端、
この世の終わりみたいな顔をして顔を引っ込める。

あぁ
本当に

「愛してマスよ」

...ギルバートくん

終わりなき連鎖。
まさか自分も被害者だとは、このドブ鼠は夢にも思わないんデショウね。

【Spice】

-さぁ、嫉妬してみせてクダサイ。



あとがき☆

こん
にちは!作者です♪
今回はありがたくもリクエストをいただきブレイクネタですっ(*^^*)
蛹香 様、ありがとうございました!!!
いざ考え始めるとこの三角関係が書きたくなってしまって、そこで発見したのがレン君曲『Spice』!!黒いヴィンセントをも騙すハイパーブラック、ブレイク!!!←楽しかったですw
蛹香 様...こんなんですみませんm(__)m

またブレイクさんネタ書きたいです♪
次はもうちょいほのぼのを目指そう←

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!!


2012.05.08
綺咲。

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