Fake Moon

□2.
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新宿。
そびえ立つ高層マンション。
正臣に書いてもらった地図は確かにここをしめしていた。

「ここか…」

奴がいると言う最上階は、淀んだ空の陰りで見えない。

『紅羽。』

思い出すのは、優しく私を呼ぶ兄さんの声。

「待ってて、兄さん…」

ポケットのナイフを握りしめ、そっと目を閉じる。

「もうすぐ…奴を殺したら…」

淡く微笑む。

「私もそっちに行くからね。」

私が生きてきた理由。
全てはこの復讐のためだから。

出入口からは入れない。
どう見てもセキュリティが厳しいだろうし、それを切り抜けるよりも…

私は裏に周り2階のバルコニーの突起に目を付ける。

「よっ…と。」

ポケットからワイヤーを取りだしカウボーイの要領で放り投げ突起に引っ掻けた。

「こっちの方が早いわね。」

勢いを付け地面を蹴りあげ、壁伝いに上に登っていった。


*

パリン

微かな音を立てガラス窓の一部が割れた。

隙間から手を滑り込ませ、鍵を開ける。

「ふぅ。」

部屋に人気はなし。
どうやら留守のようだ。

「案外簡単に入れたわね。」

少し拍子抜けした。
かなり用心深い男だと聞いていたから色々装備し
てきたのに。

「おやおや、マナーがなってないお客様だねぇ。」

「っっ!!?」

突如響いた爽やかな声。
咄嗟に振り返りそちらにナイフを向ける。

「おっと。危ない危ない。」

あっさりと避けたのは、いつのまにいたのだろうか、黒い人影。
目深に被ったフードのせいでその表情は伺えない。

「誰!?」

ナイフを突き付けたまま人影を睨み付ける。

「誰って…ここは俺の部屋なんだけど?」

爽やかな声でせせら笑いながら、人影はゆっくりとフードを取った。

「月詠紅羽さん。」

それは紛れもなくあの男。

「っ折原臨也!!」

私の生きてきた目的。
私の死の前の目標。
憎むべき復讐の相手。

「何故私の名前を知ってるの!?」

今すぐ斬りかかりたい気持ちをこらえ、疑問点をぶつける。

「伊達に情報屋を名乗ってる訳じゃないからねぇ。」

嘲笑うかのような声。
ナイフを向けているのはこちらなのに。
臨也はまるで余裕顔だった。

「じゃあ私が何しに来たかも分かってるんでしょう?」

さらにナイフを近付け眼光を鋭くする。

「知ってるよ。だから待ってたんだよ。」

にっこりと微笑まれる。

「な
ら話は早いわ。」

瞬間私は地を蹴り前に跳躍した。

ヒュッ

激しく空を切るナイフ。

「おー怖い怖い!」

やはりあっさり避けられる。
着地し、再び飛びかかると同時にポケットから取りだした小さなナイフを投げつける。

「おっと!物騒なもん持ち歩いてるねー」

器用に全てかわされる…が、それも計算の内。
その間に懐に走り込みナイフで切り付ける。

「よっ」

軽い掛け声。

「!?」

さっきまで目の前にいたはずの臨也が消えていた。

「どこ!?」

慌てて辺りを見渡す。

「こっちこっちー」

緩い声に振り返れば背後のタンスの上で笑顔で手を振っている。

「っふざけないでっ!!」

勢いよくそちらに飛びかかるが刃先が届く一歩手前で臨也はタンスから飛び降りた。

壁に着地しすぐに飛び上がり背後に降り立つ。
首筋に向けナイフを横凪ぎにするが

「よいしょっと」

軽やかにしゃがまれ虚しく宙を切った。
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