Fake Moon
□3.
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「あなたは簡単には攻撃させてくれないと聞いたものでね。」
いつもの笑顔。
私を撫でてくれたとき、
私を応援すると言ってくれたとき、
兄さんといたときと…同じ笑顔。
それが一番不気味で。
「よっぽど俺が憎かったみたいだからねぇ。流石に警戒してたよ。」
変わらず爽やかな笑顔の臨也。
「…あなた邪魔なんですよ。俺らの計画を遂行するには。大きな力を持つ奴は味方にするか消すかの二択でね。で、仲間になる気は?」
視線が少しだけ鋭くなる。
「ないよ。」
臨也は即答した。
「だと思った。」
「いち兄さんっっ!!!」
叫べばいち兄さんはゆっくりと振り向く。
「騙したの…?」
震える全身を押さえつけ言う。
「紅羽…。」
一瞬。
一瞬だけその顔が迷いを滲ませる。
「……ごめん…」
か細い声。
「どうしてっ!?!?兄さんの仇取りたいって!!!応援するって!!言ったじゃないっっ!!!!」
目の前が滲む。
思い出が滲む。
「ごめんな。全ては…」
一度だけ目をふせ、
「ボスのためだからっ 」
上げられた顔から迷いは消えていた。
地を蹴り、まっすぐ臨也に向けた腕にはナイフ。
「やめ
てっっ 」
反射的に飛び出し臨也の前に立ちはだかる。
「なっ 」
来るべき痛みにきつく目を閉じた。
「………?」
あ…れ?
いつまで経っても痛みは来ない。
そっと目を開ける。
「 」
「大丈夫?」
何食わぬ顔で目の前にいたのは背後にいたはずの臨也。
「な…んで?」
その腕にはナイフが深々と突き刺さっていた。
「女の子を俺のせいで傷物にする訳にはいかないからね。」
ははっと軽く笑う。
「わたし…あなたを殺しにきたのよ?」
震える声で言う。
「でも今は庇おうとしてくれたよ?」
爽やかな笑顔。
顔色がみるみる悪くなっていくのに、それを微塵も悟らせないように。
「…っごめんなさ...」
腕の傷を抑え謝ると、何故かひどく泣けてきた。
カラン...
乾いた音。
見ればいち兄さんは青ざめた顔で震える腕を必死に押さえつけていた。
「おれ...っ」
その表情はひどく動揺していた。
「ごめん紅羽っおれ..おれ..お前を殺してしまう所だった..っっ 」
ガタガタと震えながら謝るのは、私の知る優しいいち兄さんだった。
「もういい..もういいよ..いち兄さん。」
そ
っと近付き、うずくまるいち兄さんに手を差し出す。
「何か事情があったんでしょう?私、聞くよ?..いち兄さん、一緒に解決しようよ。」
微笑み言えば、いち兄さんはゆっくり顔を上げる。
「紅羽...っ」
その手がゆっくりこちらに伸ばされた
瞬間、
パンッ
響いた音
弾けた色
伸ばされた手は私の手をすり抜け地に吸い込まれた。
「え」
私の真横、みるみる広がっていく、赤い染み。
「い..ちに..い..さん?」
顔を見れば、額に赤い穴。薄く開いた瞳からは全く生気が感じられなかった。
「い...や..いやぁぁぁっっっ!!!」
すがりつき何度も揺する。
「起きてよ!!!起きてよいち兄さんっっ 」
溢れる涙が赤い水溜まりに落下する。
「紅羽ちゃん」
突然伸びた腕に引き離される。
瞬間