DRRR!

□キャットフード
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*

『へーうんうん成る程ねぇ…うん、そりゃ静雄が悪いよ。』

電話超しの暢気な一言にケータイをへし折りかけた右手を左手で押さえつけた。

『あ、怒った!?いやいやいや、僕は悪魔で自分の意見を述べただけでね!!とにかく謝るから!次会った時拳で挨拶とかやめてよ!?』

気配が伝わったのか慌てて挽回するのは、数少ない俺の友人であり、一応相談相手。

「安心しろ。今それどころじゃねぇから。」

努めて優しく言おうとするが無理だ。地獄から聞こえてきそうな声しか出せない。友人-新羅はちっとも安心出来てなさそうだ。

『怖い怖い!!そもそもこんな夜中に急に電話なんて、てっきり銃かなんかで撃たれたのかと思ったらまさか恋愛相談とはねぇ。』

仰天至極だと大袈裟に肩をすくませる姿が目に浮かび、手の中でピシリと音がした。今ケータイを壊したら元も子もないと必死に堪えた。

『なんか今変な音聞こえ「気のせいだ。」』

スッパリ言い切れば黙るしかなかったようだ。

『そ、そう…。でもダメじゃないか静雄。臨也は隠してるつもりみたいだけどほんとは幽くんに対して嫉妬心全開な事くらいわかるだろ?』

「それは…」

今度はこっちが黙る番だった。

『あー分かってる分かってる。咄嗟に出たワードがたまたまそれだったんでしょ?』

新羅は一つ大袈裟にため息を吐いた後、呆れたようにいい放った。

『臨也へのプレゼントを誤魔化すための。』

俺は無言で机の上に視線を移す。
そこにはラッピングされた細長い箱があった。

『今日で一周年かぁ。早いねー。君らからの報告があまりに衝撃的でセルティと一緒に何度も聞き直したのが昨日の事のようだよ。』

愛しい同居人の姿を思い出したのかその声は気持ち悪いほど弾んでいた。あぁうぜぇ。
安全のためケータイを机の上に置く。
視界に入る箱。

『で、セルティと買いに行ったんだろ?それ。』

…こいつ俺の様子見えてるのか?
タイミングの良さが気持ち悪かったが、意識はすぐに箱に移された。
そう。これは臨也へのプレゼント。
一周年のプレゼントを買ってやりたいと言ったら新羅は腹を抱え大爆笑したが、俺がぶん殴る前にセルティが鳩尾に膝蹴りをした為新羅は現在も無事生存している。
プレゼントとか、そういうセンスは皆無だからと言うとセルティが一緒に考えてやるとPDAで提案してくれたのだ。

『全く。お陰でこっちはセルティがいない1日を過ごす羽目になったんだからねっ!!』

わざわざ恨みがましく言う新羅に少々申し訳なく思っていた気持ちも吹っ飛んだ。

『とにかくちゃっちゃと仲直りしてプレゼント渡しなよ!!』

ごもっともな意見だがそれが出来たらこんな電話なんかしない。

「…」

『…静雄?』

沈黙したままの俺を不審に思ったのか、声色が真剣になる。
俺はしばらく言葉を選び、やがて恐る恐る口を開いた。

「…だ…」

『は?』

掠れてほとんど声にならなかった。落ち着いてもう一度繰り返す。

「怖いんだ…。」

か細い声が情けなく響く。

「俺はあいつが好きだ…ずっと一緒にいたい…でも…あいつはいつも気持ちが読み取れなくて…いつもヘラヘラしてるから…」

そう。感情がすぐ表に出る俺とは正反対で臨也はいつもポーカーフェイスだ。


「誰に対してもそうだから…だから怖いんだ…」

気まぐれで、なついたと思えば次の瞬間フラフラと離れていく。猫の飼い主ってこんな気持ちなんだろうか…
嫉妬なんて臨也の10倍はしてる。ほんとはあいつが微笑みかける相手は全員殴り飛ばしてやりたい。

溜まりに溜まった感情を押し込めるため一つ大きく呼吸をして、言った。

「いつか俺から離れていっちまうんじゃないかって…だったら…傷つく前に離れた方がいいんじゃないかって…」

みるみる声が小さくなっていく。
あぁほんとらしくない。どこぞの乙女だ俺は。

新羅はしばらく沈黙していたが、

『…いやそれはあり得ないと思うけ…あ、おかえりセルティ!!今日も素敵にかわいいねだだだだだっ!!』

緊張感台無しのデレデレな声が悲鳴に変わる。こりゃ首でも絞められてるかな。
相変わらずのバカップルぶりに呆れながらもとりあえずセルティに声をかけた。

「ようセルティ。さっきはありがとうな。」

勿論会話は出来ないのだが。

『ゲホッゴホッ…あー死ぬかと思った。ん?何だいセルティ?』

咳き込みながら電話口に戻ってきた新羅が再びセルティに意識を向けた。

『え?あぁ、静雄だよ。うん、実はさぁ…』

どうやら成り行きを説明しているようだ。

『…っていうわけ。ん?…あ、これ読めばいいのかい?』

セルティがPDAで何か打ち込んだようだ。

「なんだ?」

聞くと新羅は再び電話口に戻ってきた。

『あぁ、セルティから伝言ね。えーと…[さっき臨也を見掛けた。路地裏でぼんやりしてたから声をかけたが凄く落ち込んでたぞ。]』

「え?」

『[つい酷い事を言ってしまった。だって記念日なのに全然覚えてなくて…って。完璧勘違いしてるぞあいつ。]』

「は?」

いや、待てよ。よく考えたらサプライズでプレゼント渡したかったからわざと記念日の話は一度も臨也の前では出さなかった。

『[お前の不安な気持ちも分かるがそんな未来の可能性の不安なんかより、今の臨也の気持ちを大事にしてやれ。]』

…今の…臨也の気持ち…

『[少なくとも今の臨也は弟に嫉妬するくらいお前が好きだぞ。]』

目が覚めた。
俺は自分の頬を叩いた。

凄まじい音がしたが気にしない。

「ありがとな。セルティ!」

返答も待たず電話を切り、俺は外に飛び出した。
白い細長い箱を手に。
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